地震予知は可能か


 地震の前に現れる前兆現象には二種類ある。一つは電源から直接的に放射される電磁ノイズで、いろいろな周波数で発生する。もう一つは人工的な電波を活用することにより、その伝搬異常を抽出する大気の乱れや電離層の乱れである。前者は、割りばしのパチッパチッによる発電メカニズムにより震源から電磁ノイズが発せられるもので納得しやすいものだ。他方、後者は地下数10キロメートルでの震源での何らかの原因により、高度100キロメートルにある電離層まで影響を与えるということだが、当初はなかなか理解しがたいことであった。1995年の神戸地震の時に明瞭なVLF送信局伝搬異常を見出した時も、電離層内での種々の現象を研究していた私たちにとっても、にわかには信じがたいものだった。すでに多数の電磁気前兆が世界各国から報告されているが、その前兆現象が長期的データに基づいて地震と明瞭な因果関係があるかが、実用的地震予知につながるか否かの最大の課題である。

 他に動物の異常行動(宏観現象という)について一言。この現象はメディアを中心によく取り上げられ、当然あり得ることだが、残念ながら科学的データに基づく検証にはまだ至っていない。

 実は2010年前後には、地震前兆現象のうち地震との統計的因果関係が確立しているものが報告され始めた。一番はっきりしているのは電離層の乱れで、電離層が地震の前兆として最も敏感であることは特筆すべきことだ。人工的VLF電波による電離層(下部)の乱れが10年程度の観測データに基づいて地震(とりわけ、マグニチュード5以上の、浅い)との統計的因果関係があることを私たちは発表している。電離層の上部(F層、高度300キロメートル)の乱れについても、台湾のグループが10年程度のデータに基づいて両者の因果関係を検証している。これらの因果関係の確立は実用的短期予知に大きく前進するのだ。どうして地圏での効果が上層大気まで影響するかという地圏・大気圏・電離層結合という科学的メカニズムは充分には解明されていない。もちろん、この原因は前に述べた地下でのひび割れに関係していることは間違いない。さらには、地電流、地圏からの直接放射の極超低周波(ULF)電磁ノイズ、大気圏放射など地震との因果関係の確立も間近いといえる。いまや短期予知は学問的には射程内だといえる。

 私も電気通信大学在職中に、調布において国際会議(地震電磁気現象と地震予知)(直近は2005年)を4回開催し、地震予知学の国際コンソーシアムの設立に努力してきたが、この地圏・大気圏・電離圏結合という言葉は、すでに科学分野では常識的に使われるようになっており、世界中の科学者が「電離層と地震」という挑戦的なテーマの解明に日々努力している。しかも、どこの国も財政的には厳しい状況にあるにもかかわらず。地震予知学をサイエンスとして認める方向性はすでに学会的には定着しつつあると言えよう。電波科学を対象とする国際電波科学連合(URSI)、地震物理学の最大組織(IUGG)などにも常時取り上げられている。

 さらには、わたしが当初の企画段階から参加した仏国の地震電磁気専用衛星(DEMETER)が2004年に打ち上げられ、2010年末まで運用したが、実用的予知の意味合いはないものの、科学的には甚大な貢献をした。この衛星に続き、中国は本年同様の衛星の1番機を打ち上げる予定だ。ロシア、英国も共同してこの種の衛星ミッションを計画中だ。複数の衛星が同時に飛翔することになれば、宇宙からの地震予知もまんざら夢ではない。