ここ数年での社会の諸変化

 私は神戸地震以来短期予知の重要性を訴える講演を続け、とりわけ2011年東日本大震災以降ももの凄い数の講演会にお呼びいただくとともに、テレビ出演も含めたいろいろなメディアを通して啓発活動を続けている。地震予知の重要性への理解が社会一般にここ1-2年で著しく浸透してきたと感じている。

 地震予知学という学問の世界的な飛躍的進展も踏まえ、また2013年の国の「地震予知不可能」宣言を考慮し、2014年に一般社団法人「日本地震予知学会」を設立した。この学会では、先行現象を集中的に学術的に議論する場として仲間とともに設立した。あえて「日本」を冠しているのは、日本が「地震予知学」の世界をリードしていることを誇れるよう願うからである。驚いたことに、法人会員として16社にも及ぶ会社に応援していただき、民間からの期待の高さを感じている次第だ。

 さらに、民間会社の地震予知への参入については、私事をお話しすることのが良いかと思う。私は研究者の立場とは別に、大学退官後2010年ベンチャーを立ち上げ地震予測情報の配信事業をスタートして4年になる。このような民間会社に対して一部批判がある事は承知しているが、この設立理由は明確である。国は予知は出来ないとの立場で、国からの予知研究の予算獲得が期待できないため、国民の皆さんからのご支援をいただいている。これにより学問の継続も可能になる。私たちに続いて複数の民間会社がこの分野に参入してきたことは望ましい方向だと思う。地震予知は、本来社会と密着した実学なので、科学者と連携した民間活動は当然考えられることだ。

地震予知学の将来

 ここに、実用的地震予知の数事例を紹介する。2011年3月11日の東日本大震災の前兆として3月5日、6日の両日にわたり極めて強いVLF伝搬異常をみており、わたしは仙台在住の友人に事前にメールをしていた。東北沖の海の中での大きな地震が来るかと。海溝型地震なので津波の問題だと述べた。さらに、今回の熊本直下型地震に関しても4月に前兆が出ており、事前に九州には地震があることは指摘していたが、残念ながら九州北部には私たちのVLF受信点がないため、マグニチュードが実際より小さいものであった。
民宿の屋上に乗り上げた観光船「はまゆり」=2011年4月、岩手県大槌町
民宿の屋上に乗り上げた観光船「はまゆり」=2011年4月、岩手県大槌町
 これらの事も踏まえ、以下に地震予知に関して学術的観点及び実用的観点から提言したい。

 (1) 一部実用化が始まっているVLFネットワーク観測による電離層の乱れだけでなく、いろいろな前兆現象の集中的かつ総合的研究が不可欠である。とりわけメカニズムに関しては未解明の課題が多くあり、その解明は不可欠である。そのためには、現在の研究不在体制を脱却するイノベーションが絶対必要だ。私たちは地震観測をするなと言っているのではない。短期予知の主役は、地震観測ではなく、電磁気現象などであることを認識して、いま一度1996―2001年のようなフロンティア計画を立ち上げ、地震予知に人員と予算を投じてはと提言する。

 (2) 4年間の予測配信で65-70%の確率を達成し、私たちの予測情報配信事業も一定の評価を得たものの、種々の課題が浮き彫りになってきた。まず、第一はベンチャーの限界である。日本中どこで起こるかもしれないすべての地震を捉えようとすれば、既存の観測点の少なくとも5倍程度が必要であろう。これが出来れば、地震の三要素のうち場所と規模の予測が著しく向上するだろう。しかし、どのベンチャーも人材と予算は極めて限られており、少人数で欠測のない観測を続け、毎日データを解析するという膨大な作業を行っている。この点が地震発生後に後追いで検証する研究ベースとは異なる。そこで提案したのは、地域ごとにその地域専用の観測ネットワークを設立することである。例えば、東北地方、北海道、九州などなど。その一例として、わたしたちの活動を紹介しよう。私も最初のベンチャーを近々辞し、(株)早川地震電磁気研究所(電気通信大学発ベンチャー)が主体となり、関東直下型地震だけを狙う観測ネットワークを構築しつつある。いろいろな周波数での電波観測の複合的なシステムを駆使するもので、科学的メカニズムの解明にもつながり、研究的にすこぶる興味深いものである。ひいては予知精度の向上に大きく貢献することが期待できる。

 (3) 第2の問題点は、従来の一方的な地震予測情報配信では、受け手側(個人でも、企業でも)がその予測に如何に対応するかに苦慮することであった。国が予知できないと言っている以上、国民は自分の身は自分で守るしかなく、予測情報は不意打ちを食わないためのものある。予測情報とそのソリューションを融合した事業が社会の求めるものではないかと思う。すなわち、予測情報がある時のBCP(事業継続計画)を新たに考える段階に入ったと言える。幸いなことに地震の1週間前には予測が出せるため、この1週間に集中し地震までの時系列(time line)で何を順次備えるかという革新的BCPマニュアルを開発する時期にきているのではないだろうか。当然のことながら、このマニュアルには発災後の迅速な災害事後処理(disaster recovery)が含まれているのは言うまでもない。もともと危機管理は最悪の事態を想定して行うもので、よしんば地震が来なくても「来なくてよかったね」というリテラシーにすべきである。地震は自然現象で、どんなに精度向上をはかっても予測確率100%はありえず、外れを許容した地震予知でよいのではないだろうか。 

参考文献
(1)上田誠也 「どうする!日本の地震予知」 中央公論 2011年4月号(3月10日発売)
(2)早川正士編 「地震予知研究の最前線(The Frontier of Earthquake Prediction Studies)」日本専門図書出版 2012年
(3)M. Hayakawa  「Earthquake Prediction with Radio Techniques」 Wiley (USA) 2015