5月11日の阪神・巨人戦で、セ・リーグでは初めて、今季から採用されたコリジョンルールが適用され、本塁でのクロス・プレーの判定が覆った。それが勝敗にも大きな影響を与えた。結果は3対1で巨人の勝利。その1点がなければ、結果はどうなったか、わからない。
プロ野球阪神対巨人。3回、脇谷亮太の適時打で2走小林誠司が本塁狙うもアウト。その後コリジョンルール適用でセーフに。捕手原口文仁
=5月11日、甲子園球場(撮影・安部光翁)
プロ野球阪神対巨人。3回、脇谷亮太の適時打で2走小林誠司が本塁狙うもアウト。その後コリジョンルール適用でセーフに。捕手原口文仁 =5月11日、甲子園球場(撮影・安部光翁) 

 3回表、巨人の攻撃は2死2塁。脇谷のセンター前ヒットで二塁走者・小林誠が三塁を蹴ってホームを陥れた。センター大和からのワンバウンドを原口捕手がやや後ずさりしてキャッチした正面に小林誠が足から滑り込む形になった。タイミング的には、間違いなくアウト。とくに大きな衝突もなく、タッチプレーが行われた。主審は「アウト」をコールした。

 「大和が好返球で魅せました!」と、実況中継ならアナウンサーが叫ぶ場面。甲子園球場の阪神ファンは盛り上がり、巨人ファンは地団駄を踏んだ。一瞬が明暗を分ける。野球の中でも最もスリリングなプレーだと言われるホーム上の攻防。守備側の阪神が見事に瞬間の勝負を制し「勢いをつけた」と思われた。ところが、ビデオを確認した審判団は判定を翻し、小林誠の生還を認めた。アウトがセーフになったのだ。確かにルールのとおりだが、これで野球の面白さは維持できるのだろうか。

 世紀の対決と呼ばれた、ソウル五輪の陸上男子100メートルを思い出した。ベン・ジョンソンがカール・ルイスを圧倒し優勝した。誰の目にもベン・ジョンソンの勝利、カール・ルイスの敗北は明らかだった。ところがその後、ベン・ジョンソンのドーピング違反が判明。ベン・ジョンソンの金メダルは剥奪され、カール・ルイスの胸に輝いた。このとき、カール・ルイスが勝ったと感じた人はどれほどいただろう。このようなルールや裁定は、競技の健全性を守るためには必要だが、決して前向きな感動は生まない。

 話を野球に戻そう。審判の説明どおり、原口は送球が届く前から走路に立っていた。コリジョンルールに照らせばその時点で「走者はセーフ」だ。金本監督が抗議する矛先はない。ただ、その時すぐ捕手のルール違反をコールできなかった主審の過ちが痛い。そして、ルールを尊重するなら、大和の好返球を無にした原口の安易な立ち位置にこそ、金本監督は怒りを向けるべきだろう。

 これほど徹底して予告され、申し合わせているルール変更に対して安易すぎる立ち方だと指摘されても仕方がない。だが、捕手たちは感覚的に「答えを見出せない」と感じ、クロスプレーにどう対応すればいいのか、戸惑っているのも現実ではないだろうか。ルールの理想と現実のギャップというか、実態を把握すれば、原口捕手を責めるのも酷だと感じる。