ケント・ギルバート(米カリフォルニア州弁護士)
小浜逸郎(批評家)

安倍外交の相次ぐ失態の原因


小浜 中共(中華人民共和国)が主張してきた「南京大虐殺30万人説」には確実な目撃証言もなく、写真資料などの証拠も偽造ばかりであることは、日本側の歴史研究者のあいだでは常識になりつつあります。ところが2015年10月10日、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中共が申請した「南京大虐殺文書」の登録が認められてしまいました。

 さらに同年12月28日、日韓両政府はいわゆる慰安婦問題の最終解決に向けて合意したと発表しましたが、明らかに安倍外交の致命的失敗だと評価せざるをえません。「旧日本軍は20万人のセックス・スレイブ(性奴隷)を強制連行し、虐待した」という戦勝国による定説をオウンゴールで追認したことになるからです。

 外交・歴史問題で日本は中共や韓国にいいようにやられているわけですが、その原因はむしろ日本自身にある、というのが私の考えです。ケントさんが著書『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』や『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(いずれもPHP研究所)で展開されているように、GHQ(連合国軍総司令部)のウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)によって、私たちは「日本が悪い国だった」という自虐史観を植え付けられた。安倍外交の相次ぐ失態の原因を突き詰めていくと、その背景にはこのWGIPがあります。ただ、ケントさんの著書にも書かれているとおり、GHQによる占領期間は7年間にすぎませんでした。

ケント そう、1945年8月から52年4月の7年弱。52年は私が生まれた年でもあります。

小浜 それからすでに60年余りが経っているにもかかわらず、WGIPの洗脳が解けていないのは、これこそ「日本が悪い」というほかありません。
 もう一つの問題は、日本人は外交・歴史問題を「対中共」「対韓国」など個別の二国間問題として捉えがちですが、よりグローバルな構図のなかで考えるべきだということです。アメリカをはじめ、イギリス、オーストラリアなど欧米圏には、戦勝国の大義を保つためにいつまでも日本をナチス・ドイツと同じような「悪の象徴」にしておきたい、という心理がある。中共や韓国はそうした戦勝国の心理に付け込んで日本に対する「戦勝国包囲網」をつくり上げ、外交戦で優位に立とうとしている。その意図の恐ろしさを日本人は認識すべきです。

ケント たしかに先の大戦の戦勝国のなかで、イギリスは戦前の日本に対する態度を引きずっているかもしれません。先の大戦の勃発がインドの独立を早めた部分もあるわけですから。

 一方、現在のアメリカは日本をよきパートナーだと考えています。私が子供のころに不思議だったのは、ニュース番組などで西側同盟国を「アメリカとヨーロッパ、日本」といっていたことです。アメリカとヨーロッパが一緒なのはわかる。でもなぜ、日本が入るのか。それでも、子供心に「とにかく一緒に冷戦を戦っている国なんだな……」と、漠然と感じていました。だから私は現在に至るまで、一度も「日本が悪い国だ」という感情をもったことがありません。いまのアメリカ人のほとんども「かつて日本とは激しく戦ったが、いまはトモダチだ」という意識だと思います。

小浜 ほとんどのアメリカ人がですか? 一般的なアメリカ国民がアジアの片隅にある日本に対して、ケントさんのように幅広く歴史的に深く考えているとは思えません。

ケント アメリカで世論調査をすると、いちばん人気がある国はやはり日本なんですよ。日本の漫画やアニメは大人気で、いまやポケモンを知らない子供はいない。私の故郷、ユタ州の州都であるソルトレイクシティでコスプレのコンベンション(見本市)をやったら、3日間で10万人も集まりました。アメリカ人は日本発の「変な文化」が大好きなんです(笑)。

小浜 反日教育を行なっているはずの中共や韓国の国民も、日本文化に憧れをもっているそうですね。でも、そういう文化現象と習近平や朴槿惠の対日政策は別です。同じように、いくらアメリカで日本の文化が人気だといっても、政治や外交、経済の分野でほんとうに日米がトモダチといえるのか。そう単純には言い切れない部分があると思いますが。たとえば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。私は国会の承認が進まないことを強く望みます。

ケント 小浜さんはTPPに反対なんですか?

小浜 断固として反対です。

ケント 僕はいちおう賛成ですけどね。

小浜 TPPについて議論を始めると永遠に続きそうなので(笑)、要点を絞ります。TPPは自由貿易を名目にしながら、結局のところ強い国(つまりアメリカですね)が参加国の経済的主権を奪っていくような構図になると思います。ケントさんが、祖国であるアメリカの利益になるような条約に賛成なのはわかります。しかし、私たち日本人がそうしたアメリカの要求をやすやすと受け入れてしまうのは、従属国家の証しというか、自主独立の精神の欠如です。これこそ、まさにケントさんがおっしゃるWGIPの呪縛がいまだ続いていることの証左ではないでしょうか。

ケント 私の考えは異なります。1952年に日本がサンフランシスコ講和条約の発効で独立を回復した際、軍隊をもってはいけないことになった。日本の防衛はアメリカが担うから、日本は経済復興に専念してください、と。ところが当時は、アジアにまともな市場がありませんでした。そこで日本に対してアメリカの市場を開放することになった。しかしその後、日本は経済的に十分すぎるほど発展しました。もういい加減、特別措置はいらないのではないか。TPPそのものがよい協定かどうかは別にして、日米は対等な貿易体制が求められる時代になっています。経済面で相互関係を強め、さらに日本が憲法を改正することで、安全保障の面でもアメリカ任せではなく、自分で責任を負う国家となるべきです。