田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 しばしば安倍政権のアベノミクスに批判的な記事を大量生産する新聞や通信社を中心に、「安倍首相が消費増税の再延期を決断した」とするニュースを目にする。その報道が大きく伝わるたびに、官邸はこの「決断ニュース」を否定することを繰り返している。このようにアベノミクスに批判的なメディアに限って「決断ニュース」を繰り返すのは、メディアが政治の行方を自ら操作したいという思惑もあるのかもしれない。つまりメディアの「政局工作」の一面がどうも匂ってしかたがない。

 実際には、安倍首相と菅官房長官は消費増税を「予定通り行う」とのコメントを繰り返している。最近では国会の党首討論の場で、民進党の岡田代表に対して、「専門家の議論も聞いて、適時適切に判断する」と発言している。要するに素直に解釈すれば、消費増税については現状では「予定通り」だが、その最終決断について首相は、メディアや野党の扇動に乗らずにフリーハンドをいまだ有しているという状態だろう。

 ところでこの消費税増税をめぐって興味深い動きが、最近2つあった。ひとつは、民進党が消費増税の先送りを提言したこと、もうひとつは自民党の有志議員からなり、首相に近いといわれる山本幸三議員が会長をつとめる「アベノミクスを成功させる会」が消費増税と補正予算対策の組み合わせを主張したこと、である。
「アベノミクスを成功させる会」であいさつする山本幸三衆院議員(右)。中央は本田悦朗内閣官房参与=2014年10月22日午前、東京・永田町の自民党本部(酒巻俊介撮影)
「アベノミクスを成功させる会」であいさつする山本幸三衆院議員(右)。中央は本田悦朗内閣官房参与=2014年10月22日午前、東京・永田町の自民党本部(酒巻俊介撮影)
 民進党の経済政策の認識には、いわゆるマクロ経済(雇用、経済成長、物価の問題)をまともに扱う認識に欠けている。その代わりに同党が長く保有しているのは、「局地戦思考」である。例えば、今回の消費増税先送りも、先の5%から8%への消費増税が今現在の日本経済の低迷をもたらしているとは考えていない。アベノミクスが失敗したゆえの経済減速と考えている。特にその失敗の過半は金融政策にあるというのが基本的な認識だろう。対して、民進党の進める政策は昔風にいえば「構造改革」、つまりは政府部門の収支の見直しということになる。最近の民進党首脳の発言でも、財政収支の見直しが消費増税先送りの条件になっている。

 現在の日本経済は2014年4月以降から、消費水準の低下が持続していること、それに応じて設備投資などが不安定化していることが特徴である。消費の低迷は消費増税以外に考えられないが、それでもこの事実を消し去りたい人たちが指摘してきたのが、アベノミクスの成果にウソをつくことや、火山噴火やエボラ出血熱・デング熱が消費低迷を招いたとすること、さらには有名なところでは野菜不足を消費低迷に結び付けたものだ。後者のふたつはあまりにバカバカしいのでここでは触れない。ただこれらのバカバカしい主張がしばしば政府の委員会や組織で語られてきたことだけは指摘したい。

 アベノミクスの成果についてウソをつくということは、簡単にいうと安倍政権ができてから消費増税が行われるまでの(実際には駆け込み需要の効果を抜かす)経済成長率の高さが実質GDPで2.6%の増加という目覚ましいものになり、その間、雇用状況が現在に至るまで大幅な改善に至っていることをまったく評価しないか、「アベノミクスでは成長は実現していない」とウソをつく姿勢を表している。アベノミクス批判の典型的な態度である。