長岡義幸(フリーランス記者)


 法と道徳、ないしは法と倫理の分離は、近代の大原則だと教わってきた。不倫や近親相姦などの“不道徳”を刑法で裁けるわけがないし、法律をもって親を敬えとか、高齢者を大事にしろなどと強制することもあり得ない。

 犯罪たる殺人や不倫関係にある男女の性愛を描いた小説やマンガ、ドラマ、映画も数多流通している。フィクションばかりではない。現実の出来事をなぞった実録モノもそこいら中にある。これらの表現すべてが法の下で規制の対象になってしまったら、笑い話ではすまされない。公権力による「表現の自由」の侵害である。あるいは、殺人を夢想しようが、テロを思い描こうが、行為を伴わない限り、何を思ってもかまわないという「内心の自由」の干犯にもつながっていくのではないか。

 ところが、成人向け図書の販売規制は、青少年の健全育成なるものを大義名分に、まるで法と道徳の分離や表現の自由、内心の自由の埒外として扱われているかのようだ。

 長野県を除く46都道府県には、青少年健全育成条例が制定されている。一般には、性的描写などの「著しく性的感情を刺激し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められる」図書類を、民間人を交えた審議会での検討を経て、行政が「有害」図書や「不健全」図書に指定し、小売店は指定図書を「成人コーナー」などに区分陳列したり、包装をして中身を見えなくしたりして、18歳未満の青少年の目に触れないようにしなければならないという制度だ。もし18歳未満に指定図書を販売すれば、一定の手続きを経て、小売業者は警察の摘発を受け、刑罰が科されてしまうことになってしまう。

成人向け雑誌の表紙を隠す取り組みを始めた「ファミリーマートなかもず駅北口店」=堺市北区
成人向け雑誌の表紙を隠す取り組みを始めた「ファミリーマートなかもず駅北口店」=堺市北区
 ではなぜ、成人向け図書の販売規制が容認されるのか。「岐阜県青少年保護育成条例違反事件」での最高裁判決は「本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい」(1989年9月19日)としか言っていない。青少年条例による販売規制にお墨付きを与えはしたものの、「悪影響」「風潮」なる理由で“有害だから有害だ”と言うだけであった。