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百田尚樹
1956年、大阪生まれ。同志社大学在学中より、人気恋愛バラエティ「ラブアタック」(朝日放送)に出演し、世間の注目を集める。在学5年目で大学を中退した後は、放送作家の道へ進み、「探偵ナイトスクープ」、「大発見!恐怖の法則」(共に朝日放送)などの番組構成を手掛ける。小説家デビューは『永遠の0』(太田出版)を発表した2006年。その後、2008年の『ボックス!』(太田出版)で「吉川英治文学新人賞」にノミネート、2012年の『海賊と呼ばれた男』(講談社)で翌年の本屋大賞受賞した。
 世紀の大誤報が国際問題に  朝日新聞がとうとう「吉田証言」が嘘であることを認めた。 『WiLL』の読者にあらためて説明することでもないが、「吉田証言」というのは、吉田清治という稀代の大嘘つきが語ったものだ。
 吉田は、「大東亜戦争中、日本軍の命令によって、(韓国の)済州島で、朝鮮人の若い女性を木剣で脅し、無理やり二百人以上も従軍慰安婦にした」と各地で講演して回っていたとんでもない男で、その後、『私の戦争犯罪─朝鮮人強制連行』(三一書房)という本を出しているが、もちろんそこに書かれている内容はことごとく嘘だ。
 吉田は証言のたびに「強制連行した慰安婦」の数を増やし、最終的には一千人を超えるとまで言った。 朝日新聞は、この「吉田証言」を一九八二年に一面トップで大々的に報じた。当時、朝日新聞の威光はすごかった。「日本の良心」を標榜し、大学の入試問題で一番多く出題されるのが朝日新聞の「天声人語」だと自ら豪語していた(いまも豪語しているが)。
 それだけに、多くの善良な読者たちは、記事に非常に驚き、またショックを受けた。日本軍が組織的に、罪もない朝鮮人女性を銃や木剣で脅し、何百人も慰安婦にしていたという「出来事」は、多くの日本人の心を傷つけた。
 しかし、この証言は完全なる嘘だった。日本の学者や地元、済州島の新聞記者が調査をし、そんな事実はなかったことがすぐに証明された。つまり専門家でなくとも、現地に行って取材すれば誰でも容易に真相がわかることだったのだ。のちにNHKが出版元の三一書房に取材すると、『私の戦争犯罪』の担当編集者は「あれは小説です」と答えた。また、吉田自身も「証言は嘘である」と認めている(『週刊新潮』一九九六年五月二十九日号)。要するに、真偽があやふやな問題などではなく、根も葉もない「デタラメ」だったのだ。  にもかかわらず、朝日新聞はその後も「吉田証言」を何度も取り上げた。一説によると、十六回にも及ぶという。
 この世紀の大誤報は、日本と韓国の国際問題に発展した。「吉田証言」は独り歩きし、どんどん浸透していった。これ以後、韓国政府は日本に対し、執拗に謝罪要求を繰り返し、ついに日本政府は何の根拠もない「河野談話」まで発表する事態となった。 


もはや確信的な「捏造」


 戦後四十年近く、日本と韓国のあいだに「従軍慰安婦」問題はなかった。「李承晩ライン」を引き、三千九百三十九人の日本人漁民を拘束し、うち四十四人もの日本人を虐殺して竹島を奪った韓国初代大統領の李承晩も、その後、長らく政権の座にあった朴正煕(現在の朴槿惠大統領の父親)も、「従軍慰安婦」に関しては一言も言及していないし、一度たりとも日本政府に謝罪を求めていない。
 なぜか。そんなものは存在しなかったからだ。戦時慰安婦は単なる売春婦だったからだ。今日、「従軍慰安婦問題」と呼ばれるものは、一九八二年の朝日新聞の記事が発端だったのである。
 そして、いつのまにかこの「嘘」が事実として世界に広まってしまった。一例を挙げると、韓国政府はこの虚偽に満ちた吉田証言を「日本軍による強制連行の証拠」として採用し、いまも修正はしていない。
 また、一九九二年にはアメリカのニューヨークタイムズに「吉田は二千人の朝鮮人女性狩りを行った」という記事が載った。一九九六年には国連の「女性への暴力特別報告」(クマラスワミ報告)にも、「強制連行の証拠」として採用された。
 こうしたことにより、日本人の名誉と信用がどれほど失墜したか。国益がどれほど損なわれたのか想像もつかない。
 すべては朝日新聞の誤報によってである。いや、これは誤報などではない。前述したように、朝日新聞はその後、十五回も吉田証言を取り上げたのだ。これはもはや確信的な「捏造」である。一九九〇年代には吉田の嘘はとっくに証明されているにもかかわらず、その後も二十年以上にわたり平然と嘘を繰り返し続けたのだ。最初の報道から三十二年間、一度も記事の訂正も謝罪も行わなかった。三十二年間も!である。
 しかし、世論の圧力に抗しきれなかったのか、先日ついに、「吉田証言を載せた記事は間違いであった」と書いた。ただ、そこには謝罪の言葉は一切ない。それどころか、「自分たちは吉田に騙された。嘘を見抜けなかった」というような書き方をしている。加害者が被害者のふりをしたわけだ。
 また、「他の新聞も同じように報道した」と書き、罪は自分だけではないと嘯いた。これは実に卑劣なやり方である。たしかに当時は他紙も後追い記事を書いた。しかし他紙の多くはすぐに過ちに気付き、「吉田証言は虚偽である」という記事を何度も載せている。今回の朝日新聞の訂正は、そうした他紙からの圧力によるものでもあったはずだ。
 それなのに、「自分たちだけではない」といけしゃあしゃあと言い開き直るとは、まさに厚顔無恥というしかない。もちろん、三十二年間にわたり読者を欺き続けてきたことに対する反省は一切ない。
 朝日新聞としては長い間、「嘘記事を書いて訂正しない」と批判されてきたから、ここらで「訂正記事」を載せておいて、今後はそういう批判から逃れようとしたのかもしれない。それとも三十二年間、捏造記事を書き続けて、世界にそれが広まったのを確認したので、訂正記事を載せてお茶を濁したのだろうか。


強制連行の証拠はない


 しかもこの期に及んで、「広義の強制性」があったと主張する。彼女たちは自分たちが好んで慰安婦になったのではないから、そこには「広義の強制性」があったという言い分だ。こういうのを「牽強付会」(こじつけ)という。
 実は戦時慰安婦の大半は日本人女性である。不幸なことだが、当時、多くの女性が貧困ゆえに慰安婦になった。日本も朝鮮も貧しかったのだ。それを「広義の強制性」などという言葉で言いくるめようとするのは無理がある。朝日新聞はそこまで日本人を「悪の民族」に仕立てあげたいのか。
 さらに朝日新聞が汚いのは、今回の記事のなかで「インドネシアなど日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されています」と書き、あたかも「軍による強制連行」の証拠があったという表現をしていることだ。
 おそらく、インドネシアの「白馬事件」を指していると思われるが、これは日本陸軍の幹部候補生が起こした性犯罪で、戦後、犯人たちは戦争犯罪人として裁かれている(首謀者は死刑)。決して軍による組織立った強制連行の証拠ではないのである。
 あらためて言うが、軍が朝鮮人慰安婦を「強制連行」した事実はまったくない。この三十年、反日ジャーナリストや文化人が血眼になって探しているが、「強制連行」の証拠はひとつも見つかっていない。


「K・Yサンゴ」と同じ構造


 それにしても、朝日新聞はなぜあんな捏造記事を三十二年間の長きにわたって書き続けてきたのだろうか。その目的はいったい何だったのだろうか。もしかしたら、戦前の日本の軍国主義の過ちを糾弾したかったのかもしれない。しかしそうだとしても、嘘までつかなければならないのか。嘘をついて何を糾弾するのか。
 これで思い出すのは「K・Yサンゴ事件」である。これは、朝日新聞が一九八九年に夕刊に連載していた「地球は何色?」という記事のなかで起こった。その企画は「地球の自然を守ろう」という趣旨のもとでなされたものだと記憶しているが、四月二十日に「サンゴ汚したK・Yってだれだ」という見出しと写真が大きく載った。写真には、沖縄の西表島にあるギネスブックにも載った世界最大級のアザミサンゴに、何かで削ったような「K・Y」という無残な傷跡が付けられている六段抜きの大きなカラー写真だった。
 そこに付けられた記事は以下のようなものだ。
「これは一体なんのつもりだろう(中略)『K・Y』のイニシャルを見つけたとき、しばし言葉を失った。(中略)日本人は、落書きにかけては今や世界に冠たる民族かもしれない。だけどこれは、将来の人たちが見たら、八〇年代の日本人の記念碑になるに違いない。百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の……。にしても、一体『K・Y』ってだれだ」
 この記事を見た読者は、「K・Y」という心ないダイバーの行為に怒りを覚えた。
 ところが、サンゴに傷をつけた「犯人」は、ほかならぬ朝日新聞のカメラマンだった。地元のダイバーたちによって追及された朝日新聞のカメラマンが、記事を作りたいためにナイフでサンゴに傷をつけたことを自白したのだ。つまり、自作自演で記事と写真を作り、「日本人の精神の貧しさとすさんだ心」を糾弾したのだ。
 『WiLL』の賢明な読者なら、この「K・Y記事」と「吉田証言の記事」は同じ構造であることがわかるだろう。朝日新聞は、嘘でも捏造でも「日本人を貶めたくて仕方がない」のだ。
 朝日新聞は私に対する誹謗・中傷ともいえるどうでもいいような記事(なかには明らかな間違い記事もある)でも、すぐに英文で世界に発信するが、今回の訂正記事は一向に英文で発信していない(八月十九日現在)。  三十二年間、捏造を続けてきて世界に嘘が広まったことを考えれば、この訂正記事こそ真っ先に世界に向けて発信するべきではないのか。


いったい何が目的なのか


 朝日新聞の論説委員および記者の皆さんに言いたい。
 君たちはいったい何が目的なのだ、と。この社会を良くしていきたいのか。それとも悪くしていきたいのか。君たちの捏造報道のせいで、日本と韓国の関係がどれだけ悪くなったのかわかっているのだろうか。日本人が世界から信頼と尊敬をどれだけ失ったかわかっているのだろうか。日本の国益がどれほど損なわれてきたのかわかっているのだろうか。
 それとも、君たちの本当の目的はそこにあるのか。日韓の関係をこじらせ、世界中に日本人は恥ずべき民族であるということを広めるのが君たちの目的なのか。
 もし君たちが日本人の誇りと名誉と信用を守りたいという意思があるなら、日本と韓国の真の友好関係を望むというなら、いますぐに世界と韓国に向けて「吉田証言は嘘である」と、記事を大々的に発表すべきである。そして、すべての日本人に謝罪すべきである。それはやりたくないというなら、朝日新聞こそ日本人の敵であり、社会の敵であることを自ら証明したことになる。