森口朗(教育評論家)

 時代の大きな曲がり角は、小さな出来事から始まるものだ。そして、人々は数十年経ってから「思えばあれが時代の変わり目だった」と振り返る。

 私はN高等学校(以下、N高校)の設立がそうなる気がしてならない。この学校は、日本初のインターネットによる授業で卒業できる、沖縄県が認可した正真正銘の私立の高等学校である。年に数日のスクーリングがあるが、スクーリング会場は沖縄だけでなく全国各地に配置される。設立者はカドカワとドワンゴが共同して造った学校法人角川ドワンゴ学園だ。

 N高校のNはNet、New、Next、Necessary、Neutralなど多くの意味を含んでいる。

 さて、N高校の出現がどれほど大きなインパクトを与えるかを考えてみよう。

 以前ほど騒がれなくなったが、不登校は中学で多少の減少傾向が見られるものの、今なお教育界の大きな課題である。とりわけ中学校や高校の不登校問題は、進学や就職などに直結する問題として、本人や保護者を悩ませてきた。彼らにとってN高校の出現は大きな福音になるだろう。

 N高校を除くほとんどの高校は学力で輪切りになった中学生が進学していく。ところが不登校中学生は実際の学力に比較して極端に内申点が低くなる(登校していないし、多くは定期テストも受験していないのだから当然だ)。その結果、彼らは自分の学力相応の高校に進学することがかなわないのである。その点、N高校はそもそも学力で輪切りにされた高校ではない。レベルに合わない退屈な授業を同級生に歩調を合わせて受ける必要がなくなるのだ。

 高校生の不登校生徒にとって、1年に5日程度のスクーリングを除いて学校に通う必要がないのだから、より直接的な福音になるはずだ。

 高校中退も教育界の課題の一つである。美容師や介護士といった資格を取るための要件になっている場合も多く、高校中退は中退者の人生を厳しいものにしていた。もちろん、彼らが人生を逆転させる道は今でも開かれているが、授業料の安価なN高校の誕生は、中退者が再チャレンジする背中を押してくれるだろう。ちなみに彼らがN高校に編入した場合には、中退するまでに取得した単位をカウントしてもらうことができる。

 海外を飛び回るビジネスマンにとっても子弟の教育は大きな問題だ。多くの人達が、英語力を初めとして国際的に通用する人間に育てたいという欲求と、大学受験という日本人としては避けづらい課題をどうクリアするかの板挟みになって悩んでいる。そういう人にとってネット環境が整うならば、海外にいても日本の高校を卒業できるN高校は魅力的な選択肢である。