福田充(日本大学危機管理学部教授)

 自民党安倍政権において整備された特定秘密保護法、安全保障関連法は、それぞれ日本のインテリジェンス活動における国家機密の情報保全、グローバルな安全保障にむけた防衛政策に関して、戦後民主主義における日本の方針を大きく転換させる契機となった。これらの法案審議中においては、一部のメディア報道によって反法案キャンペーンが展開され、法案可決阻止を目指した市民によるデモ活動も大規模に発生した。

 インテリジェンス活動は秘密工作、情報収集・分析、防諜活動など多様な側面を持つが、現代国家において国家機密の情報保全は極めて重要な基本的な機能である。しかしながらこれまでの日本にはその制度が存在せず、「スパイ天国」と揶揄される時代が続いた。特定秘密保護法の成立過程において、特定秘密指定のプロセスの不透明性や第三者機関によるチェック機能の問題、運用の恣意性の問題などから、メディア報道が抑圧される可能性も指摘された。国境なき記者団による「世界報道自由度ランキング」(World Press Freedom Index)2015年版において日本のランキングが61位に下がり、さらには2016年版において72位にランキングが下がったことの背景として、特定秘密保護法の成立とメディア報道への影響が指摘されている(福田,2015)。
情報保全諮問会議であいさつを交わす安倍晋三首相(左)と座長の渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長(右)=4月5日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
情報保全諮問会議であいさつを交わす安倍晋三首相(左)と座長の渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長(右)=4月5日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 戦争や紛争に関する安全保障、テロリズムやミサイル事案に対する国民保護、自然災害や原発事故などの災害対策といった社会的危機においては、国家機密の問題に触れる場面が想定されるが、国家機密の問題とは別の次元で、危機的状況においては、政府発表にメディアが依存せざるを得ない状況が発生する。危機において情報源が政府に集中し、記者会見や政府発表の情報をそのままメディアが報道する状態、これが発表ジャーナリズムの問題である。

 ここには、危機における政府による情報の統制という危険性だけでなく、危機においてメディアが自力の取材活動や報道の独立を放棄するという危険性も同時に存在している。こうした現象は日本に限られたことではなく、国際的に見られる現象である。