《緊急座談会》
ジャーナリスト 櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ジャーナリスト 門田隆将(かどた・りゅうしょう)
産経新聞政治部編集委員 阿比留瑠比(あびる・るい)

 阿比留瑠比氏 慰安婦問題で河野談話がどのような経過で出されたのか。そしてどういう影響をもたらしたのか。これをはじめて明らかにされたのは櫻井さんでした。文藝春秋平成九年三月号で元官房副長官、石原信雄氏へインタビューし、韓国で行われた慰安婦十六人の聞き取り調査では裏付け調査などが行われずに河野談話が出されたことなどをかなり詳細に明らかにされました。当時、社会部記者だった私は上司の石川水穂元論説委員と一緒にこれを読み、石原氏の自宅に確認取材にでかけ、産経新聞でも報じました。これが私が慰安婦取材に本格的に関わる切っ掛けにもなりました。以来、17年が経ちましたが今、ようやく本当のことが明らかになりつつある。そのことにある種の感慨を覚えています。

 朝日新聞は八月五日からの二日間、それまでの慰安婦報道についての特集記事を掲載しましたが、謝罪はありませんでした。また日韓関係に自らが及ぼした悪影響についても全く言及がありませんでした。非常に不十分だったといわざるを得ません。ただし、朝日新聞の正体を白日のもとに晒したとは思います。

 櫻井よしこ氏 随分長期に渡って朝日新聞をウオッチしてきたという感慨は私にもあります。私が「朝日はおかしい」と思い始めたのは七〇年代に遡ります。例えば昭和五十年四月十九日夕刊にカンボジアのポル・ポトの革命について朝日の特派員は「アジア的な優しさを持つ革命」などと書いていました。フランスなどのメディアはカンボジアから逃れてくる難民に国境でインタビューを重ね、すさまじい虐殺が行われていたことを周辺取材から明らかにしていました。つくり話であるなんてあり得ない状況のなかで朝日だけは「粛清の危険は薄い」などと書いていたわけですね。

 一九八六年にも印象に残る記事がありました。石川巌編集委員が「深海流」というコラムで「スクリーンの金正日書記」と題して朝鮮民主主義人民共和国随一のシャレものが金日成主席の子息で後継者の金正日総書記だと書いています。当時金正日総書記は四十四歳。背が小さいことをカバーするためにハイヒールを履いているとか、ダンディぶりが明白だ、などと書いていました。笑える記事の典型です。

 朝日が韓国と比較し、北朝鮮をいつもいい国だと書いてきたことは、もう誰もが知っていますが、朝日新聞は一貫して左翼リベラリズムの流れに基づく報道を繰り返してきたわけです。慰安婦報道もその流れのなかから生まれてきたといえます。米国にもリベラリズムの勢力─例えば歴史学者のマサチューセッツ工科大学、ジョン・ダワー教授のような人物が代表的ですが─があって彼らは反保守でかつ反日的な言動で知られます。こうした人々に朝日は次々と日本を貶める材料を与えてきた。日米の左翼陣営が太平洋を越えてこの何十年間、連携し続けてきた。そういう構図があります。それが私達の暮らしにどのような貢献をしたのかといえば、不幸と不名誉しかもたらさなかった。

 今回の慰安婦問題の特集記事を注意深く読みました。自己弁護ばかりで本当の意味で反省など全然していない。取り消したのは吉田清治氏の証言をめぐる記事だけでした。九一年八月十一日、「従軍慰安婦」の初めての被害証言だとして報道した、自社社員の植村隆元記者の記事などは取り消していません。最終的に朝日新聞自体に深刻な傷が及ばない形に取り繕ったといわざるを得ない。左翼陣営のリベラル人士に共通する特徴ですが、彼らは概して卑怯です。間違って済まなかったとはいわない。むしろ、済まなかったという姿勢が全く感じられないのです。

 門田隆将氏 日本と日本人を貶めてきた朝日の報道姿勢は首尾一貫して続いていると私は思っています。今、櫻井さんから朝日は取り繕ってばかりで反省などしていないという話がありましたが、私には開き直りに思えました。例えば、特集記事が掲載された朝刊一面で編集担当の杉浦信之氏は「慰安婦問題の本質、直視を」と題して「慰安婦として自由を奪われ、女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質」などと述べています。慰安婦もそうですが、あの時代、さまざまな事情で身を売らなければならなかった薄幸な女性達が数多くいた。そのことは誰もが認めており、私も含めて誰もが胸を痛める話です。それは歴史の事実としてあるわけで争点でも何でもなかった。ところが、朝日は「それが問題の本質だ」というふうに今、すり替えているわけです。

 そうではなく、「従軍慰安婦」の本質的な問題とは、「強制連行」にあるわけです。朝日新聞が、この女性達は日本軍と日本の官憲によって強制連行されたと報じたことによってこの問題が作り上げられたのです。無理やり連れて行かれたのなら「拉致」であり、慰安所に閉じ込められたのなら「監禁」であり、望まぬ性交渉を強いられたのなら「強姦」ということです。日本が世界中で拉致、監禁、強姦をした国などと言われなき非難を浴びている根源がここにあります。それが朝日新聞の報道によってもたらされたことが問題の本質なのです。そこを反省するのかと思ったら、そうではなくて、問題をすり替えてきたのです。

 朝日にとって今一番悩ましいのはそうした日本や日本人を貶めてきた報道姿勢が満天下にバレかかっていることだろうと思う。そこで自称・山口県労務報国会下関支部動員部長だった吉田清治氏をめぐる記事だけ撤回して何とか批判をかわそうとしている。それが今回の特集記事なのだろうと思います。
ナヌムの家の前庭に立ち並ぶ元慰安婦たちの胸像=韓国・広州市(阿比留瑠比撮影)


山ほど根拠がある批判を「いわれなき批判」とは…


 阿比留 今話題に出た杉浦さんは一面で次のように書いています。

 《一部の論壇やネット上には、「慰安婦問題は朝日新聞の捏造(ねつぞう)だ」といういわれなき批判が起きています》

 いわれなきどころか、根拠も理由も十分過ぎるくらいにあるわけです。にも関わらず自分達が被害者のように書いている。それから、吉田清治氏をめぐる記事は取り消すと書いていますが、それは中面に小さく書いているだけで一面には何も書いていない。見出しもありません。はじめからごまかしたい意図がありありだと読み取れます。

 門田 いわれなき批判を浴びているのは、朝日ではなく日本人です。慰安婦像が世界中に建ち、非難決議があちこちの議会で取りざたされている。ここにどう朝日が回答するのか、と思ったら逆に開き直ってしまった。

 櫻井 「いわれなき批判」とは、よくそこまで仰るのね、という思いです。これは正に朝日新聞が捏造した問題です。まず強制連行という点と、全く異なる挺身隊と慰安婦を結びつけた点です。挺身隊の女性を強制連行したということが世界中に衝撃を与えているわけで、朝日はその旗振り役だったわけです。

 「挺身隊=慰安婦」の実態を想像してみると、これは凄まじいことです。挺身隊とは小学校卒業のだいたい十二歳ぐらいから二十四、五歳ぐらいの女性たちの勤労奉仕隊です。小学校を卒業したか、しないかぐらいの少女から二十代前半のうら若き女性たちを日本軍が強制的に連行し、「従軍慰安婦」にしたというのですから、こんなことを書けば、韓国の世論が怒り狂うのは目に見えている。それを書いたわけです。韓国人が怒らないほうがおかしいし、怒るのは当たり前です。その結果、本来ならもっと良い関係を維持できていたかもしれない日韓関係が深刻な形で傷つけられた。そういう意味でも、朝日は韓国人にも謝らなければいけないのです。

 阿比留 慰安婦と挺身隊の混同を朝日は認めましたが、それは無理がなかった、当時は研究が乏しかったなどと書いています。しかし、それはおかしい。自分の父母か祖父母にでも「挺身隊って何だったの?」って聞けばすぐにわかるような話です。

 門田 常識に属することですからね、女子挺身隊なんてこれはもう常識レベルですから。
 阿比留 研究なんて大上段に振りかざして言うような話ではない。そのことをここで指摘しておきたいです。
「身売り」の情報を一体どう評価したのか。
 櫻井 植村氏の記事について特集記事は「記事の一部に、事実関係の誤りがあったことがわかりました」「裏付け取材が不十分だった点は反省します」とあります。しかしこれは裏付け取材が不十分で済まされる次元の話ではありません。
 植村氏が九一年八月十一日の紙面で報じた記事では女性の名前は伏せられていました。しかし、3日後の14日にソウルで彼女は「金学順」という実名を出して記者会見に臨んでいます。そこで彼女は「私は40円で親から売られた」「三年後の17歳の時に義父から売られた」と明かしています。彼女は日本政府を相手取った訴訟をその後起こしていますが、その訴状にも「貧しさゆえにキーセンに売られた」と明確に書いているのです。こういう記述を植村記者は見ているはずです。特集記事ではいろいろと書いているけれども、「親から売られた」とある重要な情報を彼はどう評価したのでしょう。

 裁判が提訴されたあとの九一年十二月二十五日にも植村氏は金氏のインタビュー記事を大きく報じています。その記事でも「貧しさゆえに売られた」などとは植村氏は書いていないのです。前後の状況をよく見れば、植村氏が意図的に金氏が身売りされたという情報を落としたと断定しても間違いないだろうと思います。挺身隊の件もそうです。挺身隊が慰安婦と何の関係もないという重要な情報を彼は報道しなかった。そういわざるを得ないのです。
 阿比留 それに関連して一言。今回の朝日の特集では、植村氏の聴いたテープには「キーセンに売られた」という話はなかった、となっています。これが仮に本当だったとしても九一年八月の植村氏の記事は「挺身隊の名で戦場に連行された」となっているのです。では植村氏はテープで「挺身隊の名で戦場に連行された」と聞いたのでしょうか。恐らくそうは聞いてないはずです。やはり創作はあったと言わざるを得ない。これが捏造でなければ何なのかと思います。朝日の特集はそこを明確にしていないのです。

朝日社説でも次々と表現が変わってきた「強制連行」


 門田 特集ではもともとの情報はソウル支局長だった、とありますが、なぜわざわざ大阪社会部の植村氏が海外出張までしてソウル取材となったのか。これも疑問です。国内出張とは訳が違いますからね。義母と特別の関係がなかったという話を信じろ、というのはなかなか無理がありますね。

 櫻井 それは私も疑問を感じています。特ダネですよね。記者の感覚からすれば、ソウル支局長の特ダネを他の部の記者に譲るなど、およそあり得ない話だと思うのです。植村氏について特集記事では植村氏が「義母との縁戚関係を利用して特別の情報を得たことはありませんでした」とありますが、氏の書いた記事が義母の主張に有利に作用したことは確かです。そう思えば、ではなぜ彼が「親から売られた」という情報を書かなかったのか、なぜ挺身隊と結びつけた記事を書いたのか、という疑問がさらに強く浮上します。こうした点については特集では全く説明がありません。

 門田 強制連行が問題の根幹だということを朝日もわかっているのでしょう。強制連行があるのか、ないのか。ここが「性奴隷=Sex Slaves」の一番の核心です。「性奴隷」という以上、女性が嫌がっているところを無理やり連れていったり、閉じ込めたり、あるいは強姦によって、意に沿わない性交渉を強いた─といったことが不可欠なはずです。強制連行がなければとても「性奴隷」などとはいえないからです。もし、そこが崩れてしまえば今度は「では朝日新聞の今までの報道は何だったのか」となってしまう。強制連行がなかった、となると、朝日新聞は本当に吹っ飛ぶと思うのです。だから、ここを必死に守ろうとして「強制性はあった」と未だに旗を降ろしていないのだと思います。

 特集記事は植村氏自身やソウル支局長の生証言が少なすぎます。しかし、逆にそうしたまとめ方からは何とか事態を収束させたい、切り抜けたいという朝日の意図がにじみ出ているように思えます。

 阿比留 朝日の社説をみると、平成四年頃は強制連行を自明の前提条件として取り扱ってきました。ところがだんだん強制連行が怪しくなると「強制連行はあったのだろう」という書き方に後退した。やがて「強制連行の有無は問題ではない」と書き始め、ついには強制連行という言葉自体を最近は使わなくなりました。

 櫻井 強制性となりましたね。

 阿比留 これは明らかに誤魔化しです。そして朝日の読者に対する愚弄でもあると思います。本当の事を伝えようとしない。国民も大きな迷惑を被っていますが本当に不誠実な対応だと思います。

「慰安婦問題どう伝えたか 読者の疑問に答えます」と題した8月5日付け朝日新聞紙面

日韓関係にもたらした悪影響に対する自らへの言及なし


 櫻井 強制連行が独り歩きしたために、何が起きているのか。韓国の人たちが今米国で慰安婦を題材にした「コンフォート(comfort=奴隷)」というお芝居をしていますね。ニュースで見ましたが、嫌がって泣き叫ぶ女性を暴力的に連れていく、犯そうとするシーンが舞台で描かれています。慰安婦問題について何も知らない米国の方々は「こんな話があったなんて知らなかった。なんてひどい話だ」と思うのは無理もなく、実際、そういうコメントを出しています。

 朝日がつくり出した話が、こういうふうにまさに国際問題になって、あたかも事実であるかのように独り歩きを始めている。銅像の設置もそのひとつです。

 責任の重さをはかり、にもかかわらず朝日がほとんど反省していないことを考えると私は、朝日新聞の廃刊を促したいと思います。文藝春秋が雑誌「マルコポーロ」でユダヤ人虐殺事件をめぐる記事で廃刊になりましたね。

 門田 アウシュビッツ収容所に「ガス室はなかった」という記事だったと思います。

 櫻井 それからもう一つ、アグネス・チャン氏が講演で高額の講演料だという記事を書いたけれども、それが必ずしも事実でないとわかった講談社発行の雑誌、「DAYS JAPAN」も廃刊になりました。後者の判断が妥当か否かは議論の余地があると思いますが、とにかく廃刊になった。ちなみに「DAYS JAPAN」は廃刊から十四年後に別の経営体から再び出版されています。今回朝日の行ったことは、この前二社に比べても負けず劣らずひどい。朝日の行ったことは、過去の日本人、現在の日本人、そして未来の日本人、日本国に対する犯罪的報道ではないでしょうか。

 すでに少し触れましたが、朝日の報道が「日本人はそんなに悪いことはしていない」と考えていた多くの韓国人に悪影響を与えた。これも見逃せない点です。韓国でも「慰安婦の強制連行などはなかった。実は父親や夫が売ったのだ」という真面目な論文や本を書いている学者もいるわけです。しかし、そうした話を全部横に飛ばしてしまって、日本軍が強制連行したという間違った話に仕立てて、本来はもっと親日的であり得た人々を、反日に駆り立ててしまった。韓国では今や親日的なことを口にするだけで社会的に抹殺される状況です。その意味で朝日は韓国の人々にも、計り知れない不幸を負わせている。朝日の責任は大きい。だからやっぱり朝日を一回廃刊にしてジャーナリズムをやる気があるのならば、新しい陣容でもう一回新聞を立ち上げなさいというところに来ていると私は思います。

 阿比留 朝日は六日付の検証記事では、一ページを割いて「日韓関係なぜこじれたか」と書いているのですが、そこに自社の責任はまったく言及がない。先の政府の河野談話の検証報告書にも、平成四年の一月十一日付の朝日新聞の記事によって韓国世論が過熱したという指摘がされている。にもかかわらず、そういうこともまったく触れていない。私はあるとき─これは冗談ですけど─「世の中に絶えて朝日のなかりせば 日韓関係のどけからまし」とちょっと詠んでみたのですが…。

 櫻井 いいですね。(笑)

 阿比留 ほんとに今のような状況になってしまうと、修復はなかなか難しい。けれども、もともとはもっとうまくやれたはずの日韓関係をここまでこじらせた大きな要素は朝日ですよ。

 櫻井 最大の責任者でしょう。

 門田 やはり一度けじめをつけないと、影響が計り知れないほど大きい。私の息子もそうですが、外国でこのことは至るところでネックになっているわけです。若者の国際進出の壁となり、そして日韓関係の真の意味の友好、若者同士の交流や友好にも大きな影を落としています。朝日のやったことは、たしかに廃刊に値すると思いますね。

 阿比留 でも実際は廃刊どころか、今回の朝日の不十分な検証記事ですら、朝日は英語で発信していない。

 櫻井 そうです。

 阿比留 明らかに外国での評判が落ちることを気にして、日本の国益よりも自社のイメージを大事にしている印象です。

 門田 しかも韓国では、この朝日新聞のその検証記事でよけい慰安婦問題が盛り上がっている。朝日が女性の人権が踏みにじられたことが本質だと書いたことが、大きく報道され、さらなる問題になっています。

 櫻井 朝日は歴史の節目で大きな間違いを犯して、しかし絶対反省しない。これを繰り返してきました。昭和二十年の八月十四日の朝日新聞社説は、「敵米英」が「広島ならびに長崎の空襲において原子爆弾を使用」「無辜のわが民衆を殺戮」したと書いたうえで、「ただこれに対しては報復の一途あるのみである」「一億の信念の凝り固まった火の玉を消すことはできない」と煽っているのです。しかし、五日前に下村宏情報局総裁から朝日はすでに降伏の可能性を聞かされているのです。当時の朝日幹部の日記を見ると、急に論調を変えて無条件降伏とは言えない、「知らぬ顔をして、従来の『国体護持、一億団結』を表に出して」いくのがよいということが書かれている。

 新聞人としてどうかと思うのは、降伏に関する情報を取ったからには、いち早く書くべきです。書けないのならば紙面で匂わすのが当たり前だと思う。ところが、降伏前日の社説まで「一億総火の玉」説を書いている。そして戦後はすっかり変わっていくわけです。

 朝日人、朝日の知識人という存在は度し難いと私は思います。どういう状況下でも反省しない。自らを常に高みに置く。国民や世論を下に見て自分たちが指導していくという考えが染みついている。こんな新聞を読者は許してはならないとさえ、思いますね。

 阿比留 それに言ってきたことはほぼすべて間違いだらけですからね。単独講和に始まり、六〇年安保、PKOも然りですし、最近の反原発、特定秘密保護法、集団的自衛権だってそうです。

 門田 中国の文化大革命報道から北朝鮮の〝地上の楽園〟報道もそうですね。

 櫻井 カンボジアのポル・ポト革命も。

 阿比留 ですから今回の集団的自衛権を巡っても、ある外務省幹部が私に言っていたのは、「朝日がこれだけ反対してくれると自信を持って断行できる」。

 門田 櫻井さんのおっしゃる昭和二十年八月十四日の社説からその直後の変わり身の早さはこの新聞の特徴でもあります。高校野球があったのでそれを言うと、明治四十四年に朝日新聞は「野球害毒論」という大キャンペーンを張っている。野球は害毒だと二二回に渡る大キャンペーンを展開しているのです。

 櫻井 野球の何が害毒?

 門田 例えば野球では相手のプレーを盗みますよね。これは「巾着切り(きんちゃくきり)のようなスポーツだ」というわけです。盗塁もそう。相手のタイミングをはずして投げるといった技量なども「賤技」つまり卑しい技だと新渡戸稲造に言わせ、乃木希典まで駆り出しているのです。乃木希典には「こんなに時間を要する試合は若者に弊害をもたらす」といったことまで言わせて当時二二回の大連載で野球を徹底批判している。ところが、その四年後、朝日は全国中等学校優勝野球大会を始めるのです。今の夏の甲子園大会の前身ですよ。皆、唖然としたわけです。業界で朝日新聞だけは野球に反対だからライバルからはずしていたわけですが、そうしたらいきなり全国中等学校優勝野球大会を主催して、それが今、第九十六回を数える大会になっているのです。彼らの変わり身の早さは昔から何も変わっていない。節操がないわけです。あっという間に変えてしまう。

朝日慰安婦報道への検証記事の致命的論理破綻


 櫻井 それこそ朝日の「賤技」だってわけですね。今回の慰安婦をめぐる朝日の検証記事も非常に狡猾です。一九九二年一月十一日朝刊一面の記事「慰安所 軍関与示す資料」という記事に関して見てみましょう。

 検証では「宮澤喜一首相の訪韓」の直前に報じることで政治問題化させることを意図したものではないと朝日は強調しています。しかし、タイミングは訪韓直前でした。今でも覚えていますよ。黒々とした大きな見出しで、「軍関与の資料見つかる」と一面トップで報じたのを。

 阿比留 一面に六個も見出しがありましたよ。

 門田 すごかったですねえ。

 阿比留 あんな大きな記事ないですよ、普通。

 櫻井 ところが、「軍の関与」というのはよくよく読んでみると、衛生に注意させるとか悪い業者を取り締まるといった内容でした。

 阿比留 西岡力氏がよく言いますが「善意の関与」です。

 櫻井 秦郁彦さんも「これはよい関与なのだ」と語っています。こういう関与なしには慰安所の管理はできなかったわけです。ところが、実際の紙面をみるとその関与のイメージが強制連行に重なるような書き方です。

 阿比留 そうですね。この日の一面の下の方では「従軍慰安婦とは」とあって「主に朝鮮人女性でその数は八万とも二〇万とも言われ…女子挺身隊の名で強制連行し」と書いているわけです。たった十行ちょっとの短い原稿に三つも四つも間違いがあります。

 櫻井 でも検証では、朝日の報道前に政府も文書の存在を把握していた、だから軍が関与したということを朝日が初めて政府に知らせたのではなく、このような資料があったことを日本政府も知っていたのだから、宮澤さんが韓国に行って動揺して八回も謝ったのは朝日の報道の責任ではないと言っています。これは本当にずるい逃げ方だと思いますね。

 阿比留 当時の内閣外政審議室の資料を読むと、この朝日の報道で政府内が蜂の巣を突いたような大騒ぎになったという記述があります─政府の一部でああいう文書は当然当たり前の事実として把握していた人はいたのかもしれませんが─朝日の記事のような書き方で大変な騒ぎに陥ったことは間違いないのです。

 櫻井 「済州島で連行」したとする吉田清治氏についても、朝日は済州島でも取材し裏付けは得られなかった─と書き、吉田証言が虚偽だという確証がなかったと言っています。「だから真偽は確認できないと表記した」と言うのですが、吉田清治の証言内容について、現地の人が誰一人「そういうことがありました」と言わないということは、吉田清治証言が本当ではないということの証拠ですよ。「吉田清治が言ったことは嘘です」とは言わなかったかもしれないけれども、「女性が連れていかれた、トラックでやってきて二〇〇人も無理やり掠っていった」といった話はないと言っているわけです。

 ということは、吉田清治の書いたことは存在しなかったのですから、これは虚偽だということになりますが、ここも朝日は非常に苦しい言い訳で、「吉田清治の証言が当時は虚偽だということの確証がなかった」としています。一方で、いま証言は虚偽だと判断し、記事を取り消しますという結論を出しています。では彼らは虚偽だといつ判断したのか。それがこの八月五日でなければ、何年前だったのか、何十年前だったのか、その間彼らは何をしていたのか。全く言及がなく、さっぱりわからない。

 阿比留 しかもこの記事がずるいのは、少なくとも一六本の記事を書いてそれを取り消すと言っておきながら、具体的にどの記事を取り消すのか。記述がほとんどないことです。自分たちがどんな報道をしてきたのか。何を取り消して、何を残すのか。今の読者にはわからない形でこっそり取り消すわけですね。

 櫻井 自分たちの間違いをなるべく知られたくない。出来るだけ隠したいという心理が読み取れますね。

 門田 朝日新聞の特徴は、日本だけが悪いといえることを書く場合はとても一生懸命ですが、例えば今回の米軍相手の慰安婦一二二人が韓国政府を六月二十五日に提訴した出来事に対しては─これなどとても大きな出来事だと思うのですが─扱いは小さかったですね。

 慰安婦のような存在はさまざまな国の軍隊で歴史的にありました。昔の十字軍には売春婦部隊がついていったというぐらい、すごく古い時代から古今東西存在しているわけです。それを日本だけのものであり、日本だけが悪い、と読者に思い込ませる報道をしてきたわけです。

 阿比留 しかし、今回の特集で朝日は致命的な論理破綻を来しているのです。それは何か。今まで彼らは社説で慰安婦問題に関して、他の国にも同様な事例が仮にあったとしても、他の国が謝罪してないからといって、日本がそれで済ませていいわけはないと書いているんですね。しかし、今回彼らは「他紙の報道は」という欄でわざわざ他紙の報道を並べて「うちだけじゃないよ」と言わんとしていたわけですよね。

 門田 それが今回の特集では「僕だけじゃない」といっているわけですね。

 阿比留 そう。今まで自分たちは社説で「『僕だけじゃない』の理屈は通じない」と言っておきながら、自分の過ちには「僕だけじゃない」といっているような話です。


「権力の監視役」への自己陶酔目立つ朝日記者


 櫻井 実は、朝日の慰安婦の二日に渡る記事が出る前に、国家基本問題研究所ではすべての全国紙に慰安婦、河野談話作成のプロセスの検証が不十分だという意見広告を出しました。いくつかのポイントを書いたのですが、その中で強制連行という間違った情報が独り歩きして、宮澤さんは九二年の一月の訪韓で八回謝った。朝日の誤報でこれが始まったと書いた。すると朝日新聞から広告代理店を通じて二つ質問が来ました。「宮澤が八回謝ったという確証はあるのか。資料はあるのか」というのが一つ。もう一つは「朝日の誤報と言うけれど、誤報の資料を示してほしい」という内容でした。

 第一点については、朝日新聞の「時々刻々」というコラムで八回と朝日が報道しているんですね。ですから「おたくの記事ですよ」と回答しました。第二点は、これはもう山ほど証拠があるわけですから、その証拠を出しました。すると、それ以降、梨のつぶてになってしまいました。

 いろんなところで朝日は批判され、それが今回の慰安婦報道の検証につながったと思うのですが─広告をめぐるやりとりもそうでしたが─朝日は、まったく説明しようとしないのです。高飛車で、被害者の立場に自分たちを置く。この新聞に反省を求めることは、とても難しいのではないか。反省させる唯一の道は、読者が朝日を見限ってしまうことではないか。みんなが朝日と訣別するのがよいのではないかと思います。

 門田 朝日の記者と話すと、俺たちが権力を監視しなければいけないという、そういう意味の話をよくしますね。権力を監視する。これは確かにジャーナリズムの役割の一つでもあるので、それはそれで構わないのですが、朝日の場合、そういう自分に自己陶酔しているというか、酔っているような記者が非常に多い気がします。例えば彼らは民主党政権のときは権力を監視するどころか、もうべったりでしたし、結果的には日本と日本人を貶めることばかりやっていながら、自分の頭の中では、俺たちは権力と対峙している、監視していると頭の中を都合よく塗り替えている。そんな興味深い記者たちが多いですね。

自分達の責任と向き合っていない朝日


 櫻井 もうひとつ今回の特集記事で見逃せないことがあります。例えば朝日が報道して広げていった吉田清治の証言は国連のクマラスワミ報告や米国下院の対日非難決議の基本資料として引用されているのです。にもかかわらず、朝日には国際社会に日本の汚辱を広げたという自覚がまったくないのではないか。自分たちに重大な責任があるというような姿勢は見えませんね。

 今米国では国務省のサキ報道官が記者会見の席上、日本の慰安婦問題について言及し、日本を非難する出来事も起きています。議会の調査局は議会のために資料を用意し、その資料に基づいて下院が決議をするわけです。この議会調査局がまとめた基礎資料には、二〇万人強制連行、性奴隷、大部分を殺した、といったどこの国のいつの時代の話かと思うようなことが書かれています。議会調査局が偏見を持って集めたのではありません。彼らはありとあらゆる資料を集めて、それをまとめて議員に渡すわけです。それらの大本に朝日新聞の偏った、間違った報道が含まれている。ところが当の朝日は国際社会の対日批判と自分たちの報道は無関係であるかのように振る舞っている。阿比留さんがおっしゃったように、英文で全然発信していないのも、自分達の責任と向き合っていないからではないでしょうか。この問題は女性の権利侵害の問題だとすり替えてしまっています。

 私は朝日の今回の検証を、まず全文、間違いのないように英語や中国語、ハングルに訳し、海外に発信しないとおかしい。朝日は自ら国際社会に自社記事の間違いを発表すべきですが、それだけでは不十分です。ここは政府も情報発信に大いに力を入れなければならない局面です。

 阿比留 朝日の体質についてもう一言だけ。卑怯だという指摘に私も同感ですが、同時に現場クラスの記者を見ていると、基本的に彼らは慰安婦問題について不勉強で何もわかっていないといわざるを得ません。象徴的な出来事は第一次安倍政権のとき、慰安婦問題が大きな政治問題となって当時の安倍首相が「広義の強制性はともかく、狭義の強制性はなかった」という趣旨の発言をしたことがありました。これはもともと、朝日新聞が展開してきた論議や中央大学の吉見義明教授の主張などをわざと逆手にとって発言したものでした。ところが塩崎恭久官房長官の記者会見の場で朝日新聞の記者が質問に立ち怒ったような大声で「総理は狭義だの広義だの言っていますけど、意味がわかりません」と質問しはじめたのです。でも狭義だの広義だの言い出したのはあんたたちだろうと。

 櫻井 そもそも彼らがつくり出した区分けですね。

 阿比留 そう。ですから客観的に勉強した結果、自分が正しいと思うのではなく、アプリオリに自分たちは正義で正しいという前提から、ものを申すという感じです。

 門田 日韓関係が破壊され、将来的に大きな禍根を残したことは明らかですが、私は日中関係でも朝日の責任は大きいと思う。私は昭和六十年八月以前の日中関係と、それ以降の日中関係は、まったく異なったものになったと思っています。八五年の八月に何があったのか。戦後政治の総決算を掲げた当時の中曽根首相の靖国公式参拝を阻止すべく、朝日は大キャンペーンを張りました。そして、ついに人民日報が「靖国問題について日本の動きを注視している」という記事を出すのです。さらに八月十四日に正式にスポークスマンが「中曽根首相の靖国参拝はアジアの隣人の感情を傷つける」といいだした。

 戦後ずっと続いてきた靖国神社への参拝が、あそこから問題にされ始めたのです。つまり、靖国問題が〝外交カード〟になった瞬間です。朝日新聞の「ご注進報道」によってそれ以降も、どんどん、この問題が大きくなってくるわけです。朝日の報道で外交関係が悪化したり、禍根がもたらされたのは日韓関係だけでなく、日中関係にもいえると思うのです。

 阿比留 南京事件にしてもこれを大きな騒ぎにしたのも朝日でした。本多勝一さんの『中国の旅』をはじめ、プロパガンダをずっと繰り返してきましたからね。おもしろいことに、朝日は靖国については後に狂ったように批判していますが、確か昭和二十六年十月の朝日の記事には、GHQで日本に来て米国に帰る青年がずうっと靖国参拝を続けており「自分は米国に帰るけれども、日本の友人に参拝をお願いして、御霊へ祈りを」といった話を大きく記事に取り上げています。朝日は初めから反靖国だったわけじゃないのです。途中からやっぱり何らかの意図があったのでしょう。

 門田 材料にできると思ったのではないでしょうか。

 櫻井 いわゆるA級戦犯合祀を念頭にしたのですね。日本の外交で反日的なところは中国と朝鮮半島です。この中国と朝鮮半島に反日の種を蒔いたのは朝日です。朝日新聞が本当に諸悪の根源になっています。

 門田 多くの中国人は決して反日ではなくて、やさしいのです。やさしくて人がよくて、私が経験している八〇年代の中国人は、非常に日本人のことが好きでやさしい存在だった。けれども、それが今、どんどん変わってきている。朝日新聞はそういう人たちの味方ではなく、必ず共産党独裁政権の味方なのです。

 櫻井 門田さんの御指摘はすごく大切だと私も思います。中国にはいろんな人たちがいます。日本をきちんと理解していて、人間的にも素晴らしい方がいるのです。実は国基研で日本研究賞を出しているのですが、初年度の今年、その特別賞に東工大の劉岸偉さんを選びました。この人は魯迅の実弟の周作人の研究をしている学者です。彼に記念講演をお願いしましたさい、彼は「日本研究をした中国人で日本を悪く言う人はいません」と語ったのです。これは日本を知っている人たちは、日本のよさをきちんと理解することができるということでしょう。ほんとに大事なことを言ってくださったと思います。本当に日本をきちんと見ている人たちは、日本を嫌いになるはずがないし、なっていないのです。

 朝日新聞に反日的な意識を掻き立てられた中国人ではなく、中国の底辺に必ずいる誠実で、事実を事実として見ることができる人たち、今の共産党支配におかしいと思って異を唱えている民主化のリーダーの人たち、民主化に傾いている若い世代たちとの交流をしっかりとやっていかなければいけないと思いますね。

 門田 真の日中友好というのは朝日新聞〝廃刊〟から始まるということですね。

原発事故でも日本を貶めた朝日新聞


 門田 慰安婦問題とよく似た図式なのですが私は東京電力福島第一原発をめぐる朝日新聞による吉田調書キャンペーンを挙げたいと思います。これは五月二十日の朝日朝刊で、福島第一の東電職員の九割が二〇一一年三月十五日朝、「所長命令に違反」して、「原発から撤退」していたことが朝日新聞が入手した政府事故調による「吉田調書」によって明らかになった─というものでした。

 私は、ジャーナリストとして唯一、吉田氏に長時間インタビューをおこなっています。吉田氏に取材しただけでなく、あの事故の際、福島第一原発で何があったのか、現場の人間はどう闘ったのか、をテーマに多くの当事者たち─当時の菅直人首相や池田元久・原子力災害現地対策本部長(経産副大臣)をはじめ政府サイドの人々、また研究者として事故対策にかかわった班目春樹・原子力安全委員会委員長、あるいは吉田氏の部下だった現場のプラントエンジニア、また協力企業の面々、さらには、地元記者や元町長に至るまで─百名近い人々にすべて「実名」で証言してもらい、それは『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP)として上梓しています。朝日の一報を見たときはびっくり仰天し、すぐに「そんな事実はない」と思いました。しかし、朝日の報道は忽ち世界中へ駆け抜けていきました。

『ニューヨーク・タイムズ』は〈二〇一一年、命令にも関わらず、パニックに陥った作業員たちは福島原発から逃げ去っていた〉と報じ、英のBBCも、〈福島原発の労働者の約九〇%がメルトダウンの危機が目前に迫った状況で逃げた、と朝日新聞は報じた〉とし、韓国メディアのなかには〈これまで〝セウォル号事件〟が「韓国人の利己的な民族性から始まった」、「相変わらず後進国であることを示してくれた」などと韓国を卑下し、集団のために個人を犠牲にする日本のサムライ精神を自画自賛した日本の報道機関と知識人たちは、大きな衝撃に包まれた〉と報じました。それまで原発事故で発揮された日本人の勇気を讃えていた外国メディアは、報道を受けて姿勢を一変させました。最悪の事態と必死で闘った部下たちを、今は亡き吉田氏は心から称賛していましたが、朝日新聞は日本を救うために奮闘したそんな人々を世界中から嘲笑される存在に貶めてしまったのです。

慰安婦報道と同一構図の吉田調書キャンペーン


 門田 現場を取材すれば命令に反して撤退することなどあり得なかったことはすぐわかります。そして、そう思ったのは私だけではありません。NHKにしても共同通信にしても現場に食い込んでいる記者、ジャーナリストは一発で朝日報道が嘘だとわかっていました。現場の人たちはもちろん、そうです。直接会っていろいろ聞いても、多くの現場関係者が口を揃えるのは、朝日には話をしたくないということでした。要するに共同もNHKも─どちらも反原発報道では厳しいメディアだが─それでも事実やこちらの証言は聞いてくれる姿勢がある。しかし朝日新聞は、はじめからまともに報じてくれないことがわかっているから、朝日新聞の記者が怖いし、会いたくないと言うわけですね。私は、ああ、「従軍慰安婦」の強制連行問題と同じだなと思いました。

 櫻井 産経新聞が八月十八日付朝刊で吉田調書について報じましたね。そして、吉田氏の命令に違反して九割の職員が福島第二原発(二F)に逃げた─という朝日報道を否定しましたね。

 門田 自分の命令に違反して九割の職員が撤退したなんてどこにも証言がないわけです。それどころか吉田氏は「誰が撤退と言ったのか」とか、「使わないです、撤退みたいな言葉は」とか、それから「関係ない人間は退避させますからと言っただけです」「二Fまで退避させようとバスを手配したんです」「バスで退避させました、二Fのほうに」と、もう何度も言っているのです。だから「自分の命令で二Fに行かせた」ということを繰り返し言っている。命令に違反して二Fに行ったなんて、つくられた話だとわかります。

 阿比留 そうですね。構図は慰安婦と変わらない。

 櫻井 と言わざるを得ないですよ。

 阿比留 門田さん、私が不思議だったのは、「吉田調書」キャンペーンの解説記事で吉田調書について「全面公開しろ」と、朝日は迫っていますね、今回われわれが入手した調書を読んで感じたのは、全面公開されたら朝日は困るのではないかということです。すべてを詳らかにすると、ここを隠していた、ここを書いてないとあちこち突っ込まれてしまう。どういうつもりで「全面公開を」などと書いたのでしょう。

 門田 政府は公開できない、しないだろうと朝日はわかっているからわざと公開を迫っているのだと思います。朝日自身は吉田さんと約束したわけではありません。非公開を約束したわけではない。だから自分はすぐにでもできる。吉田氏と約束して絶対公開できない政府に向かっては全面公開しろと言って追い詰める。逆に私が「吉田調書」を全文公開せよ、朝日なら明日にでもできるでしょ、と言うと、朝日は何も言わなくなりましたね。

 阿比留 じゃあ、自分でやれよという話ですね。

 門田 自分ではできないわけで、それをやったら自分の記事のつくり方、いかに意図的な記事をつくったかというのがわかってしまう。実は公開されたら困るのではないか、と思うんですよね。

 櫻井 公開されて困るのは慰安婦の証言だってそうでした。朝日新聞は日韓の政府の合意で非公開という前提があったからこそ、安心して強制連行と言えたのだと思いますよ。これだってそうでしょ。政府はできない。それをやったら政府が吉田氏との約束を反故にするということですから。

 門田 できないことがわかっていて、それを主張するのですから本当に困ったものですね。



 櫻井よしこ氏 ハワイ州立大学歴史学部卒業。日本テレビ・ニュースキャスターなどを経てフリー・ジャーナリストに。第26回大宅壮一ノンフィクション賞、第46回菊池寛賞、第26回正論大賞を受賞。平成19年、国家基本問題研究所を設立し理事長に就任。著書に『宰相の資格』『日本の試練』『甦れ、日本』『明治人の姿』など多数。


 門田隆将氏 昭和33(1958)年、高知県生まれ。中央大学法学部卒。ジャーナリスト。政治・経済・歴史・司法・事件など幅広いジャンルで活躍中。著書に『太平洋戦争最後の証言』(集英社)、『甲子園への遺言』(講談社)、『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP)などがある。


 阿比留瑠比氏 昭和41年、福岡県出身。早稲田大学政治経済学部を卒業後、平成2年、産経新聞社入社。仙台総局、文化部、社会部を経て政治部へ。首相官邸キャップや外務省兼遊軍担当などを務め、現在政治部編集委員。