青山繁晴(独立総合研究所社長、作家)

 噛み合うというのは、こうしたことを言うのだろうか。

 オバマ米大統領の広島訪問である。訪問は万事良しと言っているのではない。オバマさんの掲げる「核無き世界」とは嘘と偽善であり、広島訪問には「歴史に名を残したい」という欲がある。

 だが善と善だけが噛み合うとは限らない。悪もまた、善か、あるいは善に似るものと噛み合うことがある。

 わたしは「アメリカ現職大統領による初の、しかし謝罪抜きの広島訪問」に反対した。そのようにマスメディアなどで繰り返し発信し、安倍政権の深部にも伝えた。

 世の大勢と異なる少数意見であることは承知の上だ。しかし逆説的に述べたのではない。

 謝罪が一切、無いままであれば、広島の原爆死没者慰霊碑(正式には広島平和都市記念碑)に刻まれた「安らかに眠って下さい 過ちは 繰り返しませぬから」の碑文の不可思議な問題がこのまま固着してしまうことに繋がると懸念するからだ。
 この碑文には主語が無い。日本語の文章において主語が無い場合は、原則として語り手が主語になる。これが例えば英文ともっとも本質的に異なるところだ。英文は「I」(私)が必ず大文字で書かれ、その「I」をはじめ主語が常に明記される。しかし個を過度には主張しない日本文化では、主語が省かれることがある。そのとき、省かれた主語はふつう、暗黙のうちに語り手を指している。

 広島市による現在の事実上の公式見解では碑文には「世界市民ないし人類」という主語があることになっている。しかし前述したように、それなら日本語の文章ではそれを明記せねばならない。

 したがって、この主語なき碑文は、日本人が日本人に原爆を落としたかのようにも読めてしまう。事実、日本の自称リベラリストたちは「そもそも日本が間違った戦争を起こしたから原爆も落とされたのだ」という主張を教育や報道を通じ長年、日本社会に浸透させてきた。この主張は実はリベラリズムとは何の関係もない。西洋思想であるリベラリズムとは愛する人を護るためには自ら戦う思想であり、敗戦後日本に現れた偽のリベラリストは中韓、北朝鮮の虚偽に基づく反日プロパガンダとうり二つである。

 たとえば敵国だったアメリカのハワイ・パールハーバーにある真珠湾攻撃の展示館では「アメリカが日本の資源輸入路を封鎖したために日本は攻撃に踏み切らざるを得なかった」という、まことに公平な説明と展示がなされている。この展示館は、アメリカ政府の公園局のものだ。すなわちアメリカ政府が米国民の税で建設し運用している。この事実を日本国民の大半が知らないだけだ。記念館を訪れて、しかも英語を解する日本人でもこれに気づかずに帰ってくる。「日本が悪かったはず」という刷り込み、思い込みに支配されているからだ。(まさかと思う人は、どうぞ展示館を訪れてください。費用と時間のない方は、拙著「逆転ガイド ハワイ真珠湾の巻」【ワニプラス刊】をご覧ください。宣伝しているのではありません。立ち読みでも結構です。展示の写真付きで事実を提示しています。展示館の入り口に立つパネルには「日米双方が国益を追求し、双方とも戦争回避を望んだ」と原文は英語で明記されています。日本を悪者にしていません)