古谷経衡(著述家)


徳川夢声が感嘆したディズニーアニメ再び


 日米戦争華やかりしころ、戦中・戦後に第一級の文化人として活躍した徳川夢声がシンガポールで日本軍が鹵獲したディズニーのアニメ映画『ファンタジア』を観て、そのあまりの完成度の高さに衝撃を受けたというエピソードはあまりにも有名である。

 今次公開されたディズニー映画の最新作『ズートピア』を観た小生も、夢声ほどではないがやはり大きな衝撃を受けた。

 日本のアニメは物量(予算等)の関係からリミテッドアニメ(コマ節約)の制約を受け、古くから如何に物量を演出力や大人向けの世界観で補うかの試行錯誤を経たことにより、1980年代には「ジャパニメーション」と呼ばれる世界屈指の作品群を生み出すまでに至った。その「ジャパニメーション」はいまや「クールジャパン」の一角に包摂され(日本政府がどれほどそこへの正確な理解があるのかはともかく)、世界のアニメファンを魅了し続けている。

 それに比して、フルアニメーションの歴史と伝統を誇る世界的大家こそがディズニーであるが、2013年の『アナと雪の女王』(アナ雪)を遥かに上回る屈指の傑作こそ、『ズートピア』であるといえよう。
「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 大ヒット上映中
「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 

前々作『アナ雪』は”女性の自立アニメ”ではない


 前々作『アナ雪』でディズニーは、不遇の超能力者エルサ(雪の女王)とその妹のアナが融和することにより、白かった雪の結晶が多種多様な色彩のグラデーションで示される多様な価値観と人生の共生を示した。

 この映画を観て「女性の自立」を読み取ったある社民党議員が居たが、その感想はあまりにも凡庸に過ぎる。『アナ雪』のテーマは多様な価値観の共生であり、であるからこそエンドロールで示される氷の結晶の多彩な色調が多文化共生への輝かしい未来を暗示しているのである。『アナ雪』はエルサが自立するフェミニズム万歳映画などではない。

 今作、『ズートピア』は、基本的に『アナ雪』の基本的理念、つまり多文化共生の尊さを踏襲するものとなってはいるものの、『アナ雪』の公開からたった2,3年で世界情勢は大きく変化した。

 21世紀最大の民族問題ともいえるシリア難民の流入、そしてそれに呼応するフランスを含む欧州での同時多発テロ、露骨な排外主義を掲げるトランプ候補の共和党大統領候補の指名(確実)等々、世界は多文化共生を拒絶する方向へと着実にその歩を進めている。この世界情勢の激変は、ディズニーに大きな影響を与えたことは想像に難くない。