一つに絞られた争点


 こうして、安倍政権の支持率は高止まりしている。アップしていると言ったほうがいい。同時選挙をやっても十分に勝利できると思わせるほどである。

 しかし、逆説的だが、その成功が安倍首相の心のなかに、言い知れぬ不安をもたらしているのではないだろうか。なぜかというと、これだけ争点をつぶしてしまって、では選挙で何が争点となるのか、安倍首相は何を争点としたいのかという問題が生まれているからである。

 結論から言うと、これだけ争点がなくなってしまえば、残る争点は一つに絞られることにならざるをえない。憲法改正である。

 憲法改正だけは、いまの安倍首相の政治姿勢のもとで、争点つぶしができない問題である。この争点をつぶしてしまったら安倍政権ではなくなってしまう。一方の野党であるが、民進党はこの間、安倍首相に「改正案を出さないのは無責任」と責められ続けたが、岡田代表は「安倍政権のもとでの改憲には反対」という対応を堅持している。共産、社民、生活は護憲である。この状況下で、選挙で憲法改正が焦点になってしまえば、改憲をめざす与党か護憲の野党かという対立軸での争いとなることは明確である。
記者会見で消費税増税の再延期を正式表明する安倍首相を映す街頭テレビ=1日夕、東京・有楽町
記者会見で消費税増税の再延期を正式表明する安倍首相を映す街頭テレビ=1日夕、東京・有楽町
 この対立軸が何を生み出すのか見通せない。与野党ともに見通せない。そこに、高支持率を誇りながら解散にまでは踏み切れないという、安倍首相の判断があるのではないだろうか。

憲法改正に反対する世論の高まり


 今年の憲法記念日を前にした各種の世論調査を見ると、改憲(とりわけ9条改憲)が争点となった場合、改憲派には望ましくない傾向が見られる。いくつか紹介しよう。

 たとえば読売新聞(3月16日)。参院選で投票先を決める際、憲法への考え方を判断材料にすると答えた人が67%もあり、「しない」の31%を大きく上回っている。しかも、憲法を「改正しない方がよい」が50%で、「改正する方がよい」の49%をわずかに上回った。昨年は「する方がよい」が51%、「しない方がよい」は46%だったので、逆転した格好である。

 次にNHKが4月15日から実施した全国電話世論調査の結果。憲法を「改正する必要があると思う」が27%、「改正する必要はないと思う」が31%、「どちらともいえない」が38%だったという。NHKは2007年から今年で5回同じ質問をしているそうだが、「改正する必要はないと思う」の割合が一番高かったのが、今年の調査だった。

 最後に9条について毎日新聞(5月3日)。「改正すべきだと思わない」とする人が52%で、「改正すべきだと思う」とした27%を圧倒している。参院選で憲法改正に賛成する勢力が参院の3分の2を上回ることを期待するかどうかについては、「期待しない」が47%で「期待する」の34%を上回った。

 参議院選挙で憲法9条改正が争点になれば、盤石に見える安倍政権の屋台骨が揺らぎかねない。それがいまの世論の現状である。自民党執行部はそれを避けるために腐心している。しかし、それに替わる都合のいい争点が見つかっていないというのが、安倍政権を取り巻く状況だろう。