田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 安倍首相は6月1日夕、来年4月に予定されていた消費増税を「2年半」先送りすることを表明した。平成32年(2019年)10月に現行の8%から10%に消費税率を引き上げることになるという。この再延期の理由は、1)海外経済の不安定性などリスク要因が無視できないこと、2)この世界経済リスクの下で「内需」を「腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべきである。そう判断」した、と首相は述べている。

記者会見に臨む安倍首相=6月1日午後6時1分、首相官邸(代表撮影)
 安倍首相の1日の記者会見は現状の安倍政権の経済政策のスタンスを考えるうえで非常に興味深い(全文及び動画はこちら)。まずいま要約したように、現状の日本経済が低迷しているという認識は、安倍首相のこの記者会見では“明示的には”見当たらないことだ。つまり先の5%から8%への引き上げによる消費低迷の継続など、日本経済の現状の「内需」の弱さの説明はない。代わって日本の雇用状況の改善(有効求人倍率の歴史的にみない改善、パート自給の上昇、中小企業含めた倒産件数の大幅減少など)を丁寧に説明した。経済政策の主目的が「雇用の改善」であることを考えれば、拙速なアベノミクス批判が雇用状況を無視する傾向にある中では適切な事実の指摘だろう。

 他方で気がかりな点がある。8%への消費増税の悪影響が今回の記者会見に“明示的に”ないことは、首相がどこまでこの悪影響の大きさを認識しているかに不安が残ることだ。これは今後の日本銀行との政策協調、補正予算の内容と規模などにも影響してくるかもしれない。

 他方で、重点がおかれたのは、3)財政再建への堅持の姿勢である。首相の発言を引用すると、「3年間のアベノミクスによって、国・地方を合わせて税収は21兆円増えました。その2年半の延期によって、その間にアベノミクスをもう一段加速する。そのことで更なる税収アップを確保し、2020年度のプライマリーバランスの黒字化を目指す考えであります」とある。