医師たちが触れたがらないタバコ害の〝不都合な常識〟

『コンフォール』 愛煙家通信 No.14 2015年秋号

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葦原祐樹(医学博士)

 「たばこは健康に悪い」と多くの人が信じて疑わない、その根拠は何なのでしょうか。たいていは、「人がそう言うから、そうだろう」と、受け売りの知識を信じているだけのようです。

 まず、「がん」の問題です。喫煙者と非喫煙者のがんの発症率を比べると、喫煙者に多い「たばこ関連がん」と言われるものがあります。これは疫学調査で示されていて、ここまでは事実です。「それは怖いことだ、僕もたばこを止めよう」と、これは素直な心理です。しかし、素直ではあっても、そう思った時点で、喫煙ががんの原因だと勝手に決め付けるという間違いが生じています。それは医学的には証明されていません。学術的にはっきりとしているのは、喫煙とがんの発症に「関連がある」ということだけです。だからこそ、喫煙者に多いがんを「たばこ関連がん」と言います。がんの中で最も注目されている肺がんを例に考えてみましょう。
 まず、図1を見て下さい。喫煙者率は減少していますが、肺がんの死亡者数は増えています。このグラフを見ると、喫煙は肺がんの原因ではないと直感的に思います。しかし、減少と増加と、グラフの傾きが逆ではあっても、関連があるのは事実です(こういう関連を「負の関連」と言います)。負の関連も関連であることにかわりはなく、これをもって、喫煙が肺がんの原因ではないとは言えません。疫学調査の結果で因果関係を断定するのは不可能で、それはどうにでも解釈出来ます。実際に、たばこを止めた人も、吸っていた時の悪影響が20~25年間ぐらい残って、遅れて肺がんを発症するという説を堂々と発表している人もいます。

 しかも、このグラフの弱点は、肺がんの死亡者数という「数」と、喫煙者率という「率」を比較していることです。比較するなら、両方とも「率」か「数」で一致しているほうが、説得力があります。
 では「喫煙者数」と「肺がんの死亡者数」をグラフにするとどうなるでしょうか。それが図2です。このグラフ、喫煙者数が横ばいなのを奇異に感じる人もいるかもしれません。喫煙者率は1960年代から減少していますが、人口が増加していることと、構成が高齢化して成人が多くなっていますから、喫煙者の人数が一定だと、喫煙者率は下がるのだそうです。図2を見ると、「たばこを吸う人は減ってないんだ」と妙に安心しますが、それはともかく、このグラフは重大なことを証明しています。
喫煙が原因ではないことの証明


喫煙が原因ではないことの証明


 それは、喫煙者数と肺がんの死亡者数には関連がないということです。だからといって、「なんだ、何にもわからないのか」と落胆しないで下さい。実は、疫学調査の結果は、関連があっても因果関係を証明できないのに対して、関連がなければ、因果関係はないことが証明されます。つまり、肺がんになる人が増えているのは、タバコとは全く関係のない別のところに原因があるということです。このグラフが一枚あるだけで、「喫煙は肺がんの原因ではない」と証明されます。

 肺がんにも種類があって、「腺がん」と「扁平上皮がん」が主です。腺がんは非喫煙者の女性に多く、肺の奥の方に出来る傾向があります。扁平上皮がんは男性に多く、気管支の入口あたりに出来やすいがんです。症状やCTなどの画像診断である程度区別できますが、切除したがんを顕微鏡で見て最終的に確定されます。喫煙が原因と疑われているのは男性に多い扁平上皮がんで、腺がんは非喫煙者の女性に多いために、昔から喫煙とは無関係なことがわかっています。これは1980年代以前から医学界では常識です。

 1960年代では扁平上皮がんが肺がんの首位でしたが、現在では逆転して腺がんが半分以上と首位ですから、肺がんの主因が喫煙以外にあることは、現在の医学界では常識のはずです。

 近年肺がんの患者数が増えていて、60年代の20倍以上です。増えているのは主に腺がんですが、扁平上皮がんも比率は減少していても症例の絶対数は増えていて、60年代と比べると症例数は10倍以上です。喫煙者数が一定であるにもかかわらず扁平上皮がんの症例数は増えていますから、喫煙と扁平上皮がんにも関連は認められません。つまり、扁平上皮がんの原因も喫煙とは別のところにあるわけで、かつての常識も間違いです。

 では、肺がんの原因は何なのか。疫学調査では因果関係を証明することは出来ませんが、どこに原因がありそうかを推測することは出来ます。つまり、多額の研究費をどこに投入すればいいのか、そのターゲットを見極めるための予備調査が疫学調査です。

 喫煙が肺がんの原因らしいと示唆されると、そこが集中的に研究されます。そして、たばこの煙の中に40種類以上の発がん物質が発見されました。これは正しい方向性ですが、問題は実験方法でした。発がん物質の研究は失敗だったと前々回に書きましたが、細胞は分裂する過程で、正常の状態でも一定の確率でがん化します。がん細胞は発がん物質が存在しなくても毎日5000個ほど生まれていて、NK細胞という免疫系で排除されていることがわかってきました。

 最近はがんも治る病気になって、治癒してからしばらくすると別のがんになる人がいます。「20年前に胃がんで手術をしていて、10年前には大腸がんで、今回は膀胱がんの手術をする」などと、3回目のがんの手術を受ける患者も珍しくありません。もちろん再発や転移ではなく、新しく発症したがんです。こういう患者は、NK細胞の活性が低い人なのかもしれません。何か、NK細胞の活性を下げる因子があるのでしょうか。その因子を見つければ、がんの原因を突き止めたことになります。

 それは遺伝的な体質の違いなのか、あるいは生活環境の問題なのか。いずれにせよ、細胞をがん化させる発がん物質という観点は時代遅れで、がん細胞を排除する免疫系に着目するのがこれからの視点です。
禁煙すれば寿命は延びるか

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 もう一つ、タバコの害として言われているのが「寿命を縮める」という観点です。がんは死因の約半分を占めますが、がんだけではなく、全ての原因での死亡者をみても、喫煙者は非喫煙者よりも短命だと言われています。

「たばこを止めれば医療費を削減できる」と、まことしやかに言う人がいますが、いったいどうやって計算したのか、僕は疑問でした。

 喫煙者と非喫煙者の死亡率を比較すると、たとえば健康な男性の場合、一年間の死亡率は非喫煙者が10万人あたり962人であるのに対して、喫煙者は10万人あたり1559人というデータがあります。これは1991年に英国の医学雑誌に発表されたものですが、全員が非喫煙者なら、単純計算で一年間に10万人あたり597人の死亡が減ることになります。どうも、この辺が、たばこを止めれば医療費を削減できるという論理の根拠になっているようです。

 しかし、ことはそう単純ではありません。たばこを止めた人、元喫煙者と分類されますが、元喫煙者の死亡率やがんの発症率は喫煙者と有意差がなく、たばこを止めても非喫煙者と同じにはなりません。現実に、死亡率を比較したデータは元喫煙者を喫煙者に分類して集計していて、つまり、1991年の時点で、たばこを止めても吸い続けても同じであることは研究者の間では常識だったわけです。喫煙者と非喫煙者では遺伝的資質や生活環境に違いがあって、その違いが、非喫煙者として生活するか、喫煙者になるかの分かれ目のようです。

 たばこ排斥の機運が高まったのは1950年代の米国と言われていますが、その頃から世界中で熱心に研究が始められたようです。しかし、60年以上たった現在でも、疫学調査の結果だけが頼りの「疑わしい」というレベルで、はっきりした証拠は何一つ出てきません。これは裏を返せば、喫煙の安全性を証明したとも言えます。たばこを吸うか吸わないかは、遺伝的資質や生活環境の違いを示すバロメーターでしかないということです。ついでに言えば、喫煙が自分の体質に合っていて生活環境が良ければ、たばこを吸っても大丈夫です。

 考えてみれば、日本でさえも450年以上の喫煙の歴史があるといいます。15世代以上に渡って愛され普及してきたものですから、いまさら、「悪い」というのは論理に無理があります。

 最近でも喫煙の害を堂々と発言する医者がいますが、彼らは喫煙に関する研究の原著論文を読んでいないとしか思えません。世間の風潮に後押しされて受け売りの意見を述べているだけで、無知というか怠慢というか、可愛いものです。しかし、医学者を名乗る以上、それは罪です。

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