その心根には、がんになったら運命とあきらめるしかないということなのだ。生活習慣の改善によって、其のリスクを減らすことができると伝えても、がんといったとたん、その聞く耳を閉ざしてしまう。こわいのだ。なかなか、わかってもらうことは難しいのだが、村の医師とともに、一日の塩分摂取量は6グラム以下にする必要があるのに、村の塩分摂取量は平均12グラムであることを伝え、がんは運命ではないからと健康的なメニューの紹介をする。
 
 「はるばる日本から、よくまあいつも来るね。」そういつもの軽口をたたくおばさんが、「あなたに免じて、今度の検診いってみるよ」そう笑いながらいってくれた。
 
 昨年9月25日、ニューヨークの国連本部で、期限を迎える「MDGs(国連ミレニアム開発目標)」に代わる「SDGs(持続可能な開発目標)」が全会一致により採択された。
 
 健康課題は持続可能な開発結果として認知され、そのなかの目標のひとつである Universal Health Coverage(UHC)は、途上国のみならず、先進国にとっても共通課題として設定された。
 
 UHCとは、全ての人々が質の担保された保健医療サービスを享受でき、サービス使用者に経済的困難を伴わない状態を指す概念である。その実現には、まずはその国の経済成長が前提であり、遠い道のりがあることは事実である。
 
 「がんになったら、病気よりお金のことが怖いから」そうつぶやく村の人々に、他国のわたしがいまやり続けることができることはほんとうにささやかなことにすぎない。
 
 先日の健康講座では、塩分講座のあとに、零下30度近くになる冬を乗り切るため、ハンドマッサージの講習会を開いた。相手への思いやりを込めてペアになってハンドマッサージを教えた。家にかえって家族でやってもらう。健康なくらしの方策として家族同士の触れ合いによってお互いの健康状態をいたわりあおうという趣旨だ。コミュニケーションが健康に繋がること、医療資源ってお金だけじゃない。ひとがひとを想い気遣う繋がりが、思いがけない力になることだってある。
 
 「がんになるのは運命ではないから、くらしのなかで、気をつけましょう。くらしのなかで健康に留意しないとがんのリスクがあがり、病気になればお金もかかるので、貯金するとおもって、健康的なくらしを心がけよう。」
 
 がん医療とお金については、今後も大きな課題となっていくが、ひとびとが、いまの暮らしの中で受け入れられる形で、メッセージを伝え続けるしかない。
 
 またこの長い冬があけたら、あの村を訪れたいとおもう。

(この記事は2016年01月19日「先見創意の会」コラムより転載しました)