田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 日本のインターネットで話題になっていることのひとつに、東京財団がネット上で公開した「長期財政推計モデル」がある。朝日新聞などがこの財政推計モデルに言及して、この推計があたかも現実の財政状況の見通しを与えているかのような報道したのをきっかけに、ネットで議論の火がついてしまった。

 例えば、この推計モデルで計算すると、先に延期が決まった消費増税を2017年度に予定通り実施しても、まだ政府の債務残高は名目GDPに対して大きく発散拡大してしまう。消費税率が8%のままだと、名目GDP比でいうと約4倍になってしまうという。これはあえて家計に例えると、年収(名目GDPに該当)の4倍ほどの借金を抱えて、その借金の額の増加に歯止めがかかっていないことを意味している。

 報道ではさらに、「消費税を北欧並みにあげるか」もしくは同時に「医療費の自己負担を増加するか」しないと、この債務残高の発散はとまらないと“現実的”な政策提言に結びつけている。

 結論を書けば、この長期財政推計モデルを使って、それが将来必ず起こる「財政危機」的な状況だと思い込むことは間違いだ。

 ましてやこの推計モデルの結果を利用して、1)現在の消費増税の延期について評価する、2)将来の消費税率の引き上げや医療費などの社会保障の見直し議論に直接結び付ける、といった発言は、ただの「トンデモ」である。

 まずネットでも批判の主眼になっているが、この長期財政推計モデルは、例えば消費税率をどれだけあげてもまったく経済成長に影響することはない。簡単にいえば、消費税率をあげればあげるだけ財政状況が改善するだけの、まさにクソゲーである(高橋洋一・嘉悦大学教授の指摘)。ネットの有志が、1000%に消費税をあげたところ、税収の方が経済規模を上回るという異常な事態が現れるという。
 マクロ経済要因を一定にしたうえで、消費税率の変化がどのような財政予測を出すかを示しただけ、というもっともらしい「弁護」もあるが、それこそこの予測モデルの政策論的な意味でのダメっぷりを示しているものはないだろう。

 なぜなら現状の財政悪化の真因は、過去の消費税率引き上げなどの「緊縮病」や、また日本銀行の事実上のデフレ放置のつけが溜まっていたからだ。つまりこの予測モデルが仮定で除外している、消費税率からマクロ経済要因への影響こそが決定的に重要なものだった。