今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

 企業が時給の安い大学生や高校生を長時間働かせることで人件費を抑制しようとした結果、学生アルバイトが学業と生活を両立できなくなってしまうケースが続発しており、これがブラックバイトとして、社会問題化している。
 背景には小売り、外食業などサービス業での人手不足と人件費削減がある。なるべく安く人手を充当しようとして、学生アルバイトを社員のような「中心的戦力」として利用する企業が出てきているのである。だが、学生を企業が活用しようとしたからと言って、「ブラック」にまでなるものだろうか。

 実は、この問題の根深さは、学生は労働者として「一人前」とは扱われないために、自分の権利を主張できないというところにある。今日の学生は、権利を侵害されても、「お前は甘い」「社会のことがわかっていない」などと言われて委縮してしまい、理不尽な扱いにも我慢を強いられてしまいがちなのだ。
 私が代表を務めるNPO法人POSSEには、学生やその親から膨大な量の相談が寄せられている。本記事では、学生のおかれた職場の実態を詳しく見ていこう。
(尚、ブラックバイトの背景や具体的な対処法は拙著『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)に詳しく書いたので、ぜひ参考にしてほしい)。

 Aさんは大学一年生の秋にアルバイトを始めた。生徒からの人気も業界トップレベルと評される全国規模の大手個別指導塾である。仕事内容は「小学生~高校生の指導」とだけ書かれていた。面接を担当したのは、教室を取り仕切る室長。シフトは、授業と両立できるように週2日、1日1コマのみとした。
 異変が起きたのは、翌年春のことだった。きっかけは、就職をまえに、大学4年生の講師アルバイトたちが、5~6人次々と辞めていったことだ。彼らが担当していた生徒が、残った講師たちに振り分けられた。彼の担当生徒は一気に増えて9人に。シフトは当然増え、週5日にまでなっていた。
ブラックバイト問題について「ブラック企業被害対策弁護団」が開いたシンポジウムで話す筆者=2015年11月14日、仙台市
ブラックバイト問題について「ブラック企業被害対策弁護団」が開いたシンポジウムで話す筆者=2015年11月14日、仙台市
 この教室では、生徒が体調などを理由として急にコマ(授業)に来られないことがあると、もともと別の生徒が受ける予定のコマで一緒に授業を受けさせるか、新しくコマを設定することになる。このため、週によっては週6日勤務することもあった。週に6日もの勤務。しかも、生徒の事情に合わせて生活リズムを変更しなければならない。4月になると新しく大勢の生徒が入会し、彼の担当はさらに増え、高校生2人、中学生11人になった。
 大学との兼ね合いが難しくなったため、Aさんは「生徒が多すぎます。辞めたいです」と室長に願い出た。すると室長は説教を始めた。「お前はここで辞めていいのか」「お前がいてよかったと生徒に惜しまれるくらいになってから辞めろ」「いまのお前はマイナスばかりのままだ」「このままでは辞めさせない」。結局Aさんは、自分はあまり仕事ができるほうではないと負い目を感じており、「辞めるのは無理なのだ」と思い込んでしまった。