田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 日本銀行は6月16日の政策決定会合で、当面の金融政策の運営について「現状維持」を決めた。日本銀行が現状維持を採用するのではないか、ということはいわゆる市場関係者の多くが予想していた。この予想が裏付けられたことを反映して、株価は急落し、また為替レートは大きく円高にふれた。

 また日本銀行の政策(2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」)に期待をかけている人たちに、今回の決定はかなりの失望をもたらした。
円高が進行し1ドル103円台を表示する証券会社の株価ボード=6月16日午後、大阪市中央区(恵守乾撮影)
円高が進行し1ドル103円台を表示する証券会社の株価ボード=6月16日午後、大阪市中央区(恵守乾撮影)
 安倍首相の消費増税の2年半後への再延期をうけて、日本銀行側がどのような政策判断をするかに注目が集まっていたからだ。特に最近の世界経済の不透明感や、また個人消費を中心にした国内経済の低迷をうけて、このタイミングで追加緩和を行うべきだという見方があった。例えば、中原伸之元日銀審議委員は、メディアの取材に対して、消費増税という障害が取り除かれた今こそ、「号砲一発」大規模な金融緩和を行うべきであり、その手段として国債の年間買い入れペースを現状の80兆から100兆に増額することなどを提起していた(http://digital.asahi.com/articles/ASJ6956RFJ69ULFA01F.html)。

 もちろん筆者も中原氏らの意見を支持しており、むしろ日本銀行の追加緩和はもっと早い段階で行うべきだったと確信していた。だが残念ながら冒頭にも書いたように今回も見送られた。

 公式的にはその理由は、「雇用・所得環境の着実な改善」を背景にした「緩やかな成長」を実現しているので、緩和する必要を認めないということだろう。物価上昇率も、弱含みを認めつつも、目標にむけて改善していると解釈している。簡単に言うと「日銀シナリオ」に変更はない、ということだ。

 公式的な理由以外では、1)委員会を主導する黒田総裁の「財務省的バイアス」、2)今年初めに採用されたマイナス金利政策の効果待ち、などがあげることができる。

 黒田総裁の財務省バイアスというのは、財務省出身である黒田総裁にとっては、同省の悲願である消費増税を実現するためだけに金融緩和政策は貢献すべきであり、消費増税が先送りされた現状では追加緩和の余地はない、と考える姿勢である。「増税なくして追加緩和なし」とこの財務省バイアスはまとめることができるが、もし本当にそう思っているならば相当に重症なトンデモ経済論である。