小原凡司(東京財団研究員・政策プロデューサー)

「抗日戦勝70周年」はなぜ「世界反ファシスト戦争勝利」なのか


 2015年9月3日、「中国人民抗日戦争および世界反ファシスト戦争勝利70周年記念軍事パレード」が挙行された。この軍事パレードを控えた8月22日深夜から23日にかけて、さらに24日にも、式典の予行演習が北京の天安門前の長安街で行われた。

 日本では、22日深夜に「厳戒態勢下で」予行演習が行われたと報じられたが、中国の報道では、24日の予行演習に多くの市民が見学に詰めかけた様子が窺える。民衆に比較的人気のある軍事パレードに、今年は、特別な意味が込められていたからだ。
軍事パレードで行進する中国人民解放軍兵士=2015年9月、北京(ロイター)
軍事パレードで行進する中国人民解放軍兵士=2015年9月、北京(ロイター)
 この軍事パレードは、社会の安定化を図る絶好の機会だ、という中国人研究者もいた。中国国内では、習近平主席が展開する反腐敗キャンペーンや改革によって中国社会が不安定化している、と認識されているからだ。

 戦勝70周年を記念する軍事パレードに、不安定化した社会を一つにする効果が期待されていたのである。国民の気持ちを一つにする効果があると考えられていたのはなぜだろうか。それは、国民に「明日は今より豊かになれる」と信じさせ、中国共産党にその力があると信じさせることができると考えられたからである。

 中国が、単に「抗日戦争勝利70周年記念」と呼ばず、「世界反ファシスト戦争勝利」を加えたのは、中国が第二次世界大戦の勝者であることを誇示したいからだが、なぜ「反ファシスト」なのだろうか。それは、過度に日本を相手にすることによって、中国指導部の本来の目的を損ねることになりかねないと考えられているからだ。

 中国が示したいのは、国際社会における自らの地位である。今や、中国が相手にすべきは、同じく大国である米国である、ということである。理論的には、日本は大国ではないのだから相手にしなくともよいとすることで、国内の「反日」感情が指導部批判の火種となることを避けたいのだ。

 また、実は中国共産党は日本軍とはほとんど戦っていない。日本と戦った主役は蒋介石の国民党である。そうなると抗日戦争勝利70周年を祝うべきは台湾の国民党だということになってしまう。軍事パレードにおける習近平主席のスピーチでも、共産党とも国民党とも言わず、「中国人民の勝利」とされている。

 中国は、連合国の一員として、世界と協力してファシストを倒したとすることで、中国が国際社会の中で勝者の側にいる大国なのだということと、一党統治の正統性を確保したいのである。

軍事パレードはアメリカに向けられていた

 そして、重要なのはここからだ。中国は、第二次世界大戦の勝者として本来、国際規範を作る側にいるはずだったが、国力の低さゆえに欧米に好き勝手に国際規範を作られてしまった。

「国際社会は、不公平と不平等が突出している」という中国外交部などの発言には、こうした意識が表れている。これは、「これから中国の番なのだ」という意識の裏返しでもある。

 軍事パレードに先立つ演説で、習近平主席は、「協力とウィン・ウィンを核心とする『新型国際関係』を積極的に構築する」と宣言した。協力とウィン・ウィンを核心とするのが「新型」であるという表現は、「現在の国際関係は中国にとって協力的でも公平でもない」と言っているに等しい。習近平は、この現在の国際関係を変えてやる、と言ったのである。