仲野博文(ジャーナリスト)


第六回【グループリーグ Match35 オーストリア対アイスランド】 


初の欧州選手権出場を現地で観戦
国民の8%がアイスランドを離れた


 欧州選手権ではグループリーグが終盤を迎えており、すでに9チームが決勝ラウンド進出を決めている。グループFの3試合目が22日に行われるが、大会前に圧倒的な優勢が伝えられていたポルトガルは、0勝2分けでまさかの勝ち点2。同じく勝ち点2で、グループリーグ最終戦を迎えるのがアイスランドだ。これまで国際大会とは無縁だったアイスランドが欧州選手権に出場したことは多くのフットボールファンを驚かせたが、決勝ラウンドに進出する可能性を残した状態でグループリーグ最終戦に挑むことに、なによりもアイスランド人自身が驚きを隠せないようだ。

 アイスランドの人口はわずか33万人。日本で例えるならば、秋田県秋田市や滋賀県大津市、東京都北区の人口とほぼ同じだ。夏は白夜が続くものの、逆に冬は日照時間が4時間程度しかない時期もあり、人口と気象条件だけを考えると、欧州選手権に出場したことだけでも夢のような話だ。アイスランドよりも人口の少ないUEFA加盟国はある。人口5万人足らずのフェロー諸島や、3万2000人ほどのサンマリノもワールドカップや欧州選手権の予選には出場しているが、他の国との実力差は一目瞭然だ。サンマリノの10倍以上の人口とはいえ、33万人しかいないアイスランドの代表チームがオランダやトルコ、チェコといった強豪国の入った予選リーグを2位で通過し、本大会出場を決めたのは「現代のおとぎ話」のようだ。
第一節でポルトガルに引き分けて勝ち点1を挙げ喜ぶアイスランドの選手ら。左から3人目はポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド=仏サンテティエンヌ
【アイスランド―ポルトガル】ポルトガルに引き分け勝ち点1を挙げ喜ぶアイスランドの選手ら。左から3人目はポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド=仏サンテティエンヌ
 フランスで開催されている欧州選手権でアイスランド代表の勇姿を見届けようと、観戦チケットと航空券を購入したアイスランド人は2万7000人に達したと地元メディアは伝えており、全国民の約8%が大会期間中に約2500キロ離れたフランスに滞在する。日本で考えた場合、約960万人が一斉に国外に出るのと同じで、今年のアイスランドは例年以上に静かな夏を迎えるのかと思いきや、どうもそうではないらしい。

 「ユーロに出場するだけでも、夢のような話ですが、決勝ラウンドに進める可能性がまだ残っているため、アイスランド国内もお祭りのようなムードです。フランスに行かなかったアイスランド人も、ものすごく興奮していますよ。フットボールは夏の数カ月だけ行うスポーツでした。それ以外の季節はハンドボールかバスケットボールをプレーする人が多かったのですが、国内にインドアの施設がいくつも造られたおかげで、一年を通してフットボールをする子供が増えたのです。アイスランドのフットボールが強くなったのは、こういった草の根の取り組みがあったからなんです」

 レイキャビク在住の気象予報士エイナー・エイナルションさんは、アイスランド代表の奮闘に嬉しさを隠さない。決勝トーナメント進出を信じて疑わないエイナルションさんは21日、アイスランド代表にとって天王山ともいえる22日のオーストリア戦の勝敗を天気予報に例えて占った。

 「明日は快晴。降水確率は限りなくゼロに近く、フランスのアイスランド人はきれいな晴れ空を目の当たりにするでしょうね」