組織的なドーピング不正を行ったとみられるロシア陸連に対して、リオ五輪出場を認めないとする国際陸連の方針を引き続きIOCが支持すると表明した。一方で、潔白の証明された個々の選手の出場は認める見解も示した。

 これは、一部の選手がスポーツ仲裁裁判所への提訴を示唆したことへの反応だ。人気と実績を兼ね備えた選手が多いロシア陸上選手を完全に排除すれば、リオ五輪の陸上が真の世界一決定戦から遠ざかり、五輪の価値が低下するジレンマとも関わっているだろう。

 現段階でドーピング検査に陽性反応を示していない選手にすれば、「違反していないのに、ロシア人だからといって五輪から締め出されるのはおかしい」と主張するのは当然だ。仮に過去においてドーピングを行っていたとしても、これから受ける新たな検査で陰性の結果を得る準備期間は十分あったとも言える。ドーピングの完全排除を目指す国際陸連やIOCにとっては悩ましい現実が複雑に交錯している。

国際陸連がロシア陸連を暫定資格停止とした処分の取り消しを訴えている陸上女子棒高跳びで2004年のアテネ、08年の北京両五輪で金メダルを獲得したロシアのエレーナ・イシンバエワ選手
国際陸連がロシア陸連を暫定資格停止とした処分の取り消しを訴えている陸上女子棒高跳びで2004年のアテネ、08年の北京両五輪で金メダルを獲得したロシアのエレーナ・イシンバエワ選手
 すでに公表されている様々な調査や取材報道を総合すると、ロシア・スポーツ界の根強いドーピングの日常化が窺える。とくにコーチ陣にとってドーピングは、選手強化のごく当たり前のプログラムの一環であって、倫理観や罪の意識と常に葛藤していた雰囲気は薄い。日本のスポーツ選手が、練習前後にストレッチや筋トレを行い、高校球児でさえもプロテインやアミノ酸を補給するのと同じ感覚で禁止薬物を選手に摂取させていた実態が明かされている。禁止はされているが、多くの選手が使っており、おそらく他国のライバルたちも何らかの不正によって競技力を高めているという疑心暗鬼(というより、確信にも近い警戒感)もあって、自分たちもやらなければ勝負にならない、といった観念もあったように感じられる

 年々ドーピング検査は厳しくなり、日本人の一般的な感覚からすれば、もはや不正は間違いなく暴かれる、これだけ厳格な検査すり抜けるのは不可能だと感じるが、そうでない感覚も世界には存在する。徹底して、検査機関を買収するなり懐柔すれば良いと、ロシアは考え実行した。不正を取り締まる検査機関を味方につければ怖いものはない。海外の検査官に対しても賄賂を渡すなど、可能な手立てを取っていた。それが組織的な不正と言われる由縁だ。

 最近は日本のトップ選手の口から厳しい抜き打ち検査の実態なども語られている。突然、早朝に検査官が自宅を訪ねてくる。選手は、常に居場所を明らかにする必要がある、等。世界の上位を争う競技者になると、まるで容疑者のような立場に置かれ、精神的にも抑圧されるいびつな現実。好きな競技で頂点に近づき、さらに燃えるような高次元の勝負を楽しみたいとワクワクする一方で、競技の清々しさと対極にあるそのような監視的空気があればそれだけで競技への純粋な意欲がそがれる懸念を感じる。

 ロシアの選手は、一般には立ち入りの難しい軍事施設に居所を置くことで、抜き打ち検査から守られるという対策もとられていた。