仲野博文(ジャーナリスト)

 
第七回【ラウンド16 Match43 イタリア対スペイン】

 

4年前の決勝戦はスペインの圧勝
ラウンド16で早くも実現した因縁の対決

 
 欧州選手権も決勝ラウンドに入り、26日終了時点でポーランド、ポルトガル、ウェールズ、ベルギー、ドイツ、フランスの6カ国が準々決勝進出を決めている。いくつものサプライズが一方のサポーターを歓喜させ、同時に相手サポーターを落胆させた今大会。グループリーグ3戦目のクロアチア戦でまさかの逆転負けを喫したスペイン代表は、勝ち点6でグループリーグを2位で通過。その結果、ラウンド16でイタリアと対戦することになった。

【EURO2008準々決勝】イタリアのMFデロッシのキックを横っ飛びでスーパーセーブするスペイン・GKイケル・カシージャス。スペインが4-2でPK戦を制し、24年ぶりの準決勝進出を決めた(ロイター) 
【EURO2008準々決勝】イタリアのMFデロッシのキックを横っ飛びでスーパーセーブするスペイン・GKカシージャス。スペインが4-2でPK戦を制し、24年ぶりの準決勝進出を決めた(ロイター) 
 「生ハムとフットボールは間違いなくスペインの方が上だ。イタリアが汚い手を使わなければ、スペインはいつでも試合に勝っていたと思うよ」
 
 スペイン北東部のサラゴサ出身で、現在はカナリア諸島で暮らす医師のフランシスコ・サンチェスさんは、イタリアとのライバル関係を尊重していると前置きした上で、タレント揃いのスペイン代表の選手がイタリアの汚いプレーに潰されないか不安だと語る。
 
 ハモンセラーノとプロシュットに甲乙付け難いのと同じように、スペインとイタリアのフットボールも、代表チーム間では互角の成績を残している。スペインとイタリアの代表チームによる対戦の歴史は古く、初めての試合は1920年に行われている。その後の96年間で両国は親善試合を含めて34回対戦し、10勝10敗14引き分け。27日にパリ近郊サンドニにあるスタット・ド・フランスで行われるイタリア対スペインの試合は、両国にとって35回目の顔合わせとなるが、最後に笑っているのはどちらのチームなのだろうか。
 
 決勝や準決勝で実現してもおかしくない好カードだが、実際にイタリアとスペインは4年前にウクライナのキエフで行われた欧州選手権の決勝で対戦しており、試合はスペインが4ゴールでイタリアを粉砕している。「アメリカでの恨みを晴らせた気がして、スカッとした」と、サンチェスさんは試合後に1994年のアメリカ大会の事件を思い出したのだという。
 
 1994年にアメリカで行われたワールドカップの準々決勝でイタリアはスペインと激突。87分にエースのロベルト・バッジョがゴールを決めてスコアを2-1にしたイタリア代表は残り時間を鉄壁の守備で逃げ切ろうとしたが、準決勝進出をあきらめないスペイン代表は最後の力を振り絞って猛攻を開始。ゴール前に侵入したルイス・エンリケ(現バルセロナ監督)は右サイドから放り込まれたクロスに反応したが、当時ACミランでプレーしていたディフェンダーのマウロ・タソッティがエンリケの顔面に肘打ちを食らわせ、エンリケはその場に倒れこんだ。顔面から流血したエンリケやスペイン代表の選手達は主審に猛抗議したが、ファールは認められず、PKを得ることのできなかったスペイン代表は後味の悪い形で大会を去った。
 
 顔面から流血していたエンリケだが、試合後に鼻を骨折していたことが判明。試合が米東部ボストン近郊で行われたためか、スタジアムに集まった5万人以上の観客のほとんどがイタリア系アメリカ人やイタリア人で(マサチューセッツ州やロードアイランド州、ニューヨーク州、ニュージャージー州にはイタリア系アメリカ人が多く住む)、事実上イタリアのホームゲームとなった会場の雰囲気に主審が飲み込まれてしまったという説もあるが、真相は現在も不明だ。タソッティは試合後にFIFAから8試合の出場停止処分を下されている。
 
 エンリケはその後、イタリアで監督としてASローマを指揮した。2014年にバルセロナの監督に就任し、2シーズン連続でクラブをリーグ優勝させている。エンリケが肘打ちを食らった試合では、イタリア代表の中盤の選手としてアントニオ・コンテが出場していたが、イタリア代表監督として27日のスペイン戦に挑む。タソッティはラウンド16でイタリアがスペインと対戦することについて、「スペインのクラブチームの活躍は華々しいが、代表チームは下り坂に来ていると思う」と地元メディアにコメントしているが、35回目の「因縁の対決」はどちらに軍配が上がるのだろうか。