上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)


「上昌広と福島県浜通り便り」

 

 6月17日、村中璃子氏が『ウェッジ』で衝撃的なレポートを発表した。タイトルは「子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚」だ。

 6月23日には、「子宮頸がんワクチン研究班が捏造 厚労省、信州大は調査委設置を 利用される日本の科学報道」という続報が公開された。

 村中氏は、これらのレポートで、子宮頸がんワクチンが重大な副作用をもたらすと主張してきた池田修一・信州大学教授(同大副学長、医学部長)らが提示したデータが捏造されたものであったことを示した。

 村中氏は、子宮頸がんワクチンがマウスの脳に障害を起こす証拠として提示された写真が「ワクチンを打ったマウスの脳のものではない」こと、および「ワクチンを接種したノックアウトマウスから血清(血液の液体成分)を採取。その血清を別の正常なマウスの脳切片にふりかけて撮った画像」であることを挙げた。
 子宮頸がんワクチンが脳障害を起こしたと主張したいなら、血液中に抗体があり、それを実験室で正常脳組織と反応させるだけでは不十分だ。血液と脳の間には血液脳関門と言われるシステムがあり、血液内のたんぱく質の大部分が脳には移行しないからだ。

 血中の抗体が脳に移行し、実際に脳組織を破壊していることを示さねばならない。実は、池田氏は、マウスを解剖し、この点も分析していた。おそらく、結果は問題なかったのだろう。この結果は村中氏に追及されるまで隠していた。自分に都合のいいデータだけを取り上げ、牽強付会な論理を構築する。池田氏の態度は科学的には不適切であり、「捏造」と言われても仕方がない。

 3月16日、池田教授が研究成果を発表したとき、マスコミは大々的に取り上げた。例えば、TBSは看板番組の「NEWS23」で「子宮頸がんワクチン副反応『脳に障害』国研究班発表」、共同通信は「脳の症状、免疫関与かー子宮頸がんワクチン研究班」と報じている。

 3月16日の段階で、各紙が池田教授の発表を、そのまま報じたことは仕方がない。信州大の副学長を務める人物が、厚労省の研究班の班長として発表したのを、「捏造かもしれない」と考える記者はいないだろう。

 では、ウェッジのレポートを各紙はどう扱っただろうか。重要なのは、池田氏の発表が不適切であったことが判明したあとのマスコミの対応だ。残念ながら、ウェッジのレポートが発表されてから一週間の6月24日現在、テレビ・新聞はどこも報じていない。

 知人の医療を専門とする全国紙の記者に聞いたところ、「社内で揉めている。このことを書きたい記者がいるが、被害者サイドにたつ記者が書かせないようにしている」と言われた。

 被害者の救済と、子宮頸がんワクチンの安全性の議論は別物だ。こんなことをしていると、ワクチンを使うことで、予防できるかもしれない子宮頸がんをみすみす見逃すことになる。

 どんなワクチンでも副作用はある。メリットとデメリットを天秤にかけねばならない。ワクチン接種は社会全体で考える問題だ。そのためには、正確な情報が国民に伝わらなければならない。これはメディアの仕事だ。今回のような対応は、自らその責任を放棄したことになる。マスコミの自殺と言っていい。

 記者が主義・主張をもつことは大いに結構だが、都合の悪いニュースを無視してはならない。短期的に国民を騙せても、やがて信頼を失う。子宮頸がんワクチン問題に関して、マスコミ関係者の奮起を期待したい。