村中璃子(医師・ジャーナリスト)

 「子宮頸がん予防接種調査の結果を報告します」

 このようなタイトルで、名古屋市が6月18日(土)の午前零時にウェブサイトを更新した(http://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000073419.html)。記者会見どころか、プレスリリースもなく、記者クラブへの投げ込み(通知)もない。あまりにひっそりとした「報告」にメディアも気づかず、週明け20日(月)に市に確認を入れたのは、Wedge以外はたった1社だったという。

消された「速報」


2015年12月14日から2016年6月17日までの状態
 同じURLには、前日までは「調査結果(速報)を公表します」というページがあった。名古屋市は、2015年12月14日に「調査結果(速報)」を発表しており、この時は河村たかし市長が記者会見を行った。その「結論」の項には、「今回調査した24項目の症状について、ワクチン接種者に有意に症状のある人が多い項目は無かった」と記してあったのだが、6月18日に発表された「集計結果」という資料にはそのような記述が一切ない。

 「オッズ比」(接種した人がしていない人に対してどの程度症状が起こりやすいかを比較した尺度)も消されており、「集計結果」に示された「何人中何人が症状ありと答えた」という生の数字をもとに、資料を見た人が一つ一つ計算しなければ、結果を解釈できない状態になっている。

調査結果(速報)の内容
 名古屋市は、昨年、市内に住む若い女性約7万人を対象に、日本初の子宮頸がんワクチン接種後症状に関する大規模調査を行った。回答率は4割超。こういった調査では高い数字である。

 「調査結果(速報)」で示された結果は、月経不順、関節や体の痛み、光過敏、簡単な計算ができない、身体が自分の意志に反して動くなど、子宮頸がんワクチンとの因果関係が疑われている24の症状について、年齢で補正するとむしろ15症状でワクチン接種群に少ないという衝撃的なものだった(参考記事はこちら)。この調査で解析を行ったのは名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野、鈴木貞夫教授の研究室である。

 一方、薬害問題に取り組むNGO「薬害オンブズパースン会議」は、速報発表当日に名古屋市役所で会見を開き、「明らかに不自然な結果で、被害実態をとらえる解析もなされていない」(朝日新聞の記述)と批判。2日後の12月16日には市長宛てに「速報の解析結果の『結論』の信頼性は乏しい」とする意見書を送付した。

 意見書では、「分析疫学の解析手法を適用して接種群と非接種群の統計学的有意性の検定を行うには適さない」「年齢調整の誤り」などの問題点を指摘し、「さらなる分析」「徹底した分析」「生データの公表」を求めている。

 しかし、多くの疫学者はこの指摘に首をかしげる。

 愛知県がんセンター研究所疫学・予防部の田中英夫部長は「名古屋市が発表したHPVワクチンと自覚的な諸症状との関連を調べた調査は、非接種群を比較対照に置いた良くデザインされた大規模な疫学調査で、結果の信頼性は高いと考えます」、「一部の団体からは、年齢を補正してオッズ比を算出したことが不適切であるとの意見があるようですが、この調査のように、2つの集団間で有病率を比較する場合、年齢の影響を補正して因果関係の有無を推定する値を算出することは、疫学の基本中の基本です」、「この調査にも、いくつかのバイアスが入り込んでいる可能性はありますが、接種群の方がワクチンと有症状を関連付けて回答しやすくなると考えるのが自然で、このためこの調査方法は、因果関係を過大評価する方向に働いていると思われます。にもかかわらず、症状との関連性が認められなかったのですから、その結果は、ゆるぎないものと考えるのが妥当です」と語った。