仲野博文(ジャーナリスト)



【第九回 準々決勝 Match47 ドイツ対イタリア】

 

 ラウンド16でスペインを破ったイタリアが準々決勝でドイツとぶつかる。2試合続けて決勝戦のような組み合わせに直面するイタリアの不運にも同情するが、対戦相手のドイツはスペイン同様に、相撲で例えるならば様々な国際大会で実績を出し続ける「横綱」だ。ゴールキーパーから前線の選手まで、各ポジションにワールドクラスの選手が揃い、チームの士気も高い。

 常にどの時代もサッカー大国として君臨し続けてきたイメージが強いドイツだが、90年代半ばには主力選手の高齢化が指摘され、代表チーム内の若返りに苦労した時期も存在する。1996年にイングランドで行われた欧州選手権では、東ドイツ出身で超攻撃的リベロとして知られたマティアス・ザマーや、その年の2月に代表でデビューしたばかりのオリバー・ビアホフといった選手の活躍もあって、見事に優勝している。

 しかし、ザマーの負傷によって当時すでに37歳だったローター・マテウスが代表に復帰した1998年のワールドカップでは、準々決勝でクロアチアに0-3で完封負け。39歳になったマテウスが招集された2000年の欧州選手権では、グループリーグで1勝もあげることができず、3試合でわずか1得点。グループリーグ最下位で大会を去っている。

 2000年の欧州選手権に出場したミヒャエル・バラックは、2010年までドイツ代表の中心選手として活躍した中盤の名手だ。ある時期からバラックは伝説的名手ベッケンバウアーのニックネームをもじって、「小皇帝」という愛称で呼ばれるようになったが、皇帝ではなく小皇帝だったためか、国際大会で優勝することは一度もなかった。口の悪いサポーターはバラックをシルバーコレクターと揶揄するが、バラックが代表の中心であった時期に、ドイツ代表が再び国際大会で準決勝や決勝の常連に返り咲いたのも事実だ。

【欧州選手権準々決勝 ドイツ―ポルトガル】積極的に攻撃参加したドイツMFミヒャエル・バラックは後半16分、ヘッドでダメ押しの3点目を決めた。ドイツは3-2で勝利しベスト4へ進出した=2008年
【欧州選手権準々決勝 ドイツ―ポルトガル】積極的に攻撃参加した
ドイツMFミヒャエル・バラックは後半16分、ヘッドでダメ押しの3点目を
決めた。ドイツは3-2で勝利しベスト4へ進出した=2008年
 バラック抜きで挑んだ2010年のワールドカップでは3位。2012年の欧州選手権では準決勝進出。そして、2014年のワールドカップでは準決勝でホスト国のブラジルを7-1というスコアで粉砕し、決勝戦では途中出場したマリオ・ゲッツェの決勝ゴールでアルゼンチンに勝利。24年ぶり4回目の優勝を飾った。余談になるが、当初バラックは2010年のワールドカップ出場が確実視されていたが、当時プレーしていたイングランド・プレミアリーグの試合で、後述するケビン・プリンス・ボアテングに足を踏みつけられた際の負傷が原因となって南アフリカ行きを断念したというエピソードが残っている。

 シルバーコレクターで終わったバラックには申し訳ない話だが、バラックが代表から離れてからのドイツ代表は、世代交代も上手く行われ、選手層も充実したチームになった。もちろん、これは決してバラック個人の責任ではない。2010年のワールドカップに出場したドイツ代表チームのメンバー23人のうち、実に11人がドイツ以外の国にルーツを持つ選手だったのだ。

 以前からドイツ代表には、ドイツ以外の地域にルーツを持つ選手が何人もいた。日本でもプレーしたピエール・リトバルスキーはロシア系で、90年代にバイエルン・ミュンヘンと代表で活躍したメーメット・ショルはトルコ系だった。ベルギーやフランスのリーグで得点王に輝き、1974年にドイツ初の黒人選手(当時は西ドイツ)として代表に召集されたエルヴィン・コステデは、ドイツ駐留米軍兵士の父とドイツ人の母との間に生まれた選手であった。

 ドイツといえば、労働目的で一時的にドイツに滞在する「ガストアルバイター」制度のイメージが強いが、実際には数多くの移民を受け入れている国だ。各国からドイツにやってきた移民の子供たちがドイツでサッカーを始め、才能のある若手はやがてプロの世界に入っていく。ほぼドイツ人の両親のもとで生まれた選手のみで構成されていた代表チームは、ドイツ以外の地域にルーツを持つ選手の活躍が顕著になったこともあり、新しい戦力を代表に加えることが可能になった。これにより、選手層も厚くなり、世代交代での悩みが大きく解消されたのだ。

 ドイツが移民大国であることはデータでも証明されている。国連が2015年に発表した各国の移民の数に関する調査結果によると、ドイツには現在900万人以上の移民が暮らしており、国民全体の約12パーセントがドイツ国外にルーツを持つとされている。これには難民としてドイツにやってきた人たちも含まれているが、ドイツよりも多い移民を抱える国はアメリカとロシアだけだ。現在のドイツ代表にも移民の息子は多いが、ヨーロッパ中で問題となっている難民流入問題やテロ事件も影響して、異なるルーツを持つ選手への嫌がらせが右翼政党関係者から出始めている。