[WEDGE REPORT]


佐々木伸 (星槎大学客員教授)


 世界最高峰のサッカー大会といわれる「欧州選手権」がフランスで開幕した。4年に一度の大会には24カ国が参加、1カ月に渡って事実上世界ナンバー1を決める熱戦が繰り広げられる。しかし米国で起きた史上最悪の銃撃テロで犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)が選手権大会でテロを計画しているとの懸念も高まり、フランス全土が厳戒態勢に包まれている。

標的はパブリック・ビューイング?


 大会はフランス全土の10都市で51試合を開催、決勝が行われる7月10日まで続く。出場枠が8つ増えたこともあり、250万人のサッカーファンが殺到する大イベントだ。すでにフランス対ルーマニアや、イングランド対ロシアなどの試合が行われ、観客同士の乱闘騒ぎも発生している。

 大会がヒートアップするにつれ、フランスの治安・警備当局のテロへの警戒も強まる一方だ。当局は全国から警官を大動員し、1万3000人を超える民間の警備員も配置されている。カズヌーブ仏内相は「100%の予防措置を講じたからといって、テロのリスクはゼロにはならない」と安全を完全に保証できないことを認めている。

マルセイユに訪れたイングランドサポーター(Getty Images)
マルセイユに訪れたイングランドサポーター(Getty Images)
 当局が狙われることを最も心配しているのは、大会会場そのものよりもむしろ、巨大なスクリーンでゲームを放映する屋外のパブリック・ビューイングだ。例えばパリ・エッフェル塔近くの公園シャン・ド・マルスには試合のたびに約9万人が押しかける見通しだ。

 入場時間を早めて手荷物検査を二重にするなど警備を強化しているが、パリのほか、マルセイユ、ボルドーなどではこうしたパブリック・ビューイングは試合が行われている間、ほとんど毎夜、開設される予定だ。

 パリでは昨年1月には風刺週刊誌シャルリエブドなどが襲撃され17人が死亡。11月には欧州選手権のメーン会場でもあるパリ郊外サンドニのフランス競技場などで同時多発テロがあり、130人が犠牲になった。いずれもISや国際テロ組織アルカイダ信奉者の犯行だった。

 とりわけ当局が、今大会がISの標的になっていると懸念しているのは、11月のテロと、3月にベルギーのブリュッセルで起きた自爆テロの双方に関与しているとして拘束されたIS工作員モハメド・アブリニの供述による。

 アブリニはISが欧州選手権の開催中にフランスを狙っていると明らかにし、大会がテロの標的になっている恐れが一気に強まった。2013年のボストン・マラソンを狙ったテロで明白になったようにスポーツ・イベントはテロリストにとっては狙いやすく、大きな被害を与えやすい格好の標的だ。

 当局が大会会場やパブリック・ビューイングと同様に警戒しているのは、各国チームの宿泊施設だ。44年前のミュンヘン五輪でイスラエル選手団の宿舎が襲撃された事件を治安当局者は忘れてはいない。また無人機を飛ばして空から爆弾や化学物資を投下するリスクもあり、当局の心配は尽きない。