田村秀男(産経新聞編集委員)


 英国の欧州連合(EU)からの離脱が国民投票で確実になったのを受けて円高が加速しているが、主因は日米の実質金利差の縮小にある。

 グラフは2013年1月以降の日米金利差と円の対ドル相場の推移である。金利は償還期間10年国債の利回りで、実質金利とはその利回りから消費者物価上昇率を差し引いた。金利差は米国から日本を差し引き、名目と実質の2通りを挙げている。10年国債は、主要国の標準的な金融資産であり、その国の通貨価値を反映する。

 一目瞭然、円の対ドル相場は日米の実質金利差が拡大する局面では下落し、縮小傾向に転じると円高になる。昨年4月以降、実質金利差は下がり始め、それより6カ月前後遅れて円高傾向に転じた。

 実質金利差に比べて、名目金利差のほうは13年9月以降、ほぼ安定した水準で推移している。

 日銀は同年4月に異次元金融緩和に踏み切り、国債を金融機関から大量に買い上げることで、国債利回りを下げてきた。しかし、米国との名目金利差はあまり動かなかった。円高傾向が続く中で、日銀は今年2月にはマイナス金利政策を導入し、国債利回りはマイナスに転じたが、それでも円高は止まらない。

 日本の消費者物価上昇率は、14年4月の消費税率8%への引き上げによる上乗せ分がなくなった翌年4月以降、ゼロ・コンマ台で推移し、今年3、4月にはマイナスに陥った。対照的に、米国の物価は今年に入って以降、上昇基調にある。こうして実質金利差は大きく縮小し、消費税増税前の14年2月の2・5%から今年4月には0・46%まで下がった。

 英国のEU離脱問題が円高に作用したのは、世論調査で離脱支持派が多数を占めた6月初旬時以降である。今後の円相場を左右する鍵はやはり、日米の名目金利、インフレ率の動向になるだろう。

 米国のほうは、景気回復の足取りは鈍く、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに慎重で、実質金利は当面、上昇しそうにない。

 日本では、消費税増税後に落ち込んだ家計消費が底ばい状態である。内需低迷に円高が重なり、デフレ圧力は高まっている。日本の実質金利は高くなり、米国との実質金利はさらに縮小する気配である。仮に、英国がEU残留となり、市場で円が売られても、一過性の「巻き戻し」に終わっただろう。

 日銀が円高傾向に歯止めをかけるためには、量と金利の両面で追加緩和に踏み切る必要がある。「量」の追加緩和は、国債の購入額を現在の年間80兆円から100兆円に引き上げる案が有力だが、逆に円高要因になりうるので、威力に疑問符がつく。日本国債が品薄になると相場はさらに上昇すると見込まれ、海外からの投機買いを招き寄せる。その結果も円高だ。