仲野博文(ジャーナリスト)
 

第十回 【準決勝 Match49 ポルトガル対ウェールズ】

 

優勝候補ベルギーに勝利したウェールズ
ポゼッション率が48パーセントという偶然も


 ユーロ2016では英国から3チームが出場している。イングランドとウェールズ、そして北アイルランドの3チームだ。準決勝に進出したウェールズは1958年のワールドカップが唯一出場した国際大会で、欧州選手権への出場は今大会が初となる。北アイルランドはワールドカップに3大会出場しているが、これまで欧州選手権に出場する機会はなかった。スウェーデンで行われた1958年大会にはスコットランドも出場しており、イギリスの4チームが全て出場した唯一の大会となっている。

 今大会ではイングランド、北アイルランド、ウェールズの全ての英国系チームがラウンド16に進出したが、イングランドと北アイルランドは準々決勝に進むことはできず、すでにフランスを離れている。「三匹のライオン」の愛称で知られるイングランド代表だが、グループリーグのウェールズ戦を2-1で制した際にはエンジンがかかることを期待されたものの、ラウンド16でアイスランドに敗れ、不可解な采配がメディアから批判されていたホジソン監督は逃げるような形で辞任を発表している。結局、サポーターがフランスで目にしたのはいつものイングランドで、眠れる獅子は今大会でも目を覚ますことはなかった。

【ウェールズ―ベルギー】勝ち越しのゴールを決めたウェールズのロブソンカヌ(右)=ロイター
【ウェールズ―ベルギー】勝ち越しのゴールを決めたウェールズのロブソンカヌ(右)=ロイター
 グループリーグを3位で終えた北アイルランドだが、得失点差が幸いして、ラウンド16に進出(今大会からグループリーグを3位で終えた6チームのうち、4チームが勝ち点や得失点差でラウンド16に進出できるようになった)。ラウンド16ではウェールズとぶつかり、英国系チーム同士の試合となったが、後半にオウンゴールを献上してしまい、試合はそのまま終了。スペインやフランスのようなスタイリッシュなプレーとは無縁の北アイルランドだったが、その奮闘ぶりは多くのサポーターから称賛された。初出場チームとしては上々の出来ではなかっただろうか。

 北アイルランドに勝利したウェールズは、準々決勝でベルギーと対戦した。グループリーグ初戦でイタリアに敗れたベルギーは、2戦目と3戦目に勝利し、ラウンド16に進出。ラウンド16ではハンガリーを4-0で完膚なきまでに叩きのめし、最高のチーム状態で準々決勝に進出していた。ベルギーの爆発的な攻撃力でハンガリーを撃破した試合では、スタジアムで試合を観戦していたベルギー代表サポーターズクラブの創設者の男性が、試合直後に心臓発作で亡くなっている。

 ベルギーとウェールズは欧州選手権の予選リーグで同組に入り、ベルギーが首位。ウェールズが2位という形で本大会出場を決めている。準々決勝で両国が対戦する前、ベルギーが圧倒的に有利だという見方が大勢を占めていた。しかし、予選リーグはウェールズの1勝1分けに終わっており、ウェールズにとってベルギーは比較的相性のいい対戦相手でもあったのだ。

 試合は前半13分、インドネシアにルーツを持つラジャ・ナインゴランの弾丸ミドルでベルギーが先制。ベルギーはさらにウェールズに襲いかかるが、31分にキャプテンのアシュリー・ウイリアムズのゴールで同点としたウェールズは、ベルギーの猛攻に体を張ったディフェンスで対応し、後半に2点を追加。終わってみれば、ウェールズが3-1で優勝候補の一角と期待されたベルギーを下し、ジャイアントキリングを達成していた。UEFA(欧州サッカー連盟)のマッチレポートによると、試合全体のボールポゼッション率はベルギーの52パーセントに対し、ウェールズは48パーセントだった。

 6月23日にイギリスで実施されたEUからの離脱を問う国民投票。ウェールズでは52パーセントで離脱派が勝利した。国民投票とフットボールは全くの別物だが、奇妙なことにユーロ2016では48パーセントのボール保持率に終わったウェールズが「残留」を決めている。