猪野亨(弁護士)

 東京都の府中市が3年目の職員50人を全員2泊3日の自衛隊体験入隊をさせるという暴挙を制度化しました。

「『ゆとり』市職員、空自で鍛え直し…3年目研修」(読売新聞2016年5月26日)

「東京都府中市は今年度から、入庁3年目の市職員全50人を自衛隊に2泊3日で体験入隊させる。研修の一環で、同市は「厳しい規律の中で『ゆとり世代』の若手職員を鍛え直したい」とその意義を強調」「研修は同市内にある航空自衛隊府中基地で実施。事務職、技術職、保育士職の全員が6月の平日3日間を使い、災害時の救助活動やあいさつ、行進などの基本動作の訓練を行う。宿泊を伴う集団生活では時間厳守や整理整頓も重視される。」

 発想が狂っています。「ゆとり世代」がどうこうという問題もありますが、強制的に自衛隊にぶち込んで認識を変えさせるって、一体、いつの時代の発想ですか。ここに書かれているよう「行進」なんて下品、下劣、屈辱そのものです。何故、このような意味のない「命令」で動かされなければならないんですか。軍隊や警察などの階級組織が大好きなこの一糸乱れぬ行動です。「あいさつ」だって同じレベルのものでしょう。大きな声で、声をそろえてというやつです。

 航空自衛隊だから行進では「陸軍分列行進曲」は使わないのかもしれませんが、「空の精鋭」でしょうか。陸上自衛隊は「陸軍分列行進曲」、海上自衛隊は「軍艦行進曲」です。戦前は空軍がなかったことからそれに見合う空軍用の行進曲がなかったというだけで発想は同じです。(戦前は組織としては陸海軍のみです。空軍創設は大日本帝国憲法の改正が必要です。「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」)

 そういえば、極右の稲田朋美氏も今の若者を鍛え直すには自衛隊にぶち込めと発言しています。
 「徴兵制はない!? 稲田朋美氏が言うと全く説得力がない やはり今は控えているだけ、将来は徴兵制だ

 2013年に防衛省が企業に対し、自衛隊への「派遣」制度を検討していたことも暴露されています。
 「企業からの『派遣』って徴兵制の布石にしかみえない 戦争法案の後に待っているもの

 防衛省のいう企業のメリットがこれです。「自衛隊で鍛えられた自衛隊製“体育会系”人材を毎年、一定数を確保することが可能」。府中市の発想と全く同じです。「ゆとり世代」などというのは全くの口実です。府中市は、その「ゆとり世代」が終わればこの制度はやめるとは言っていません。効果があったなど言って最初からずっと続けるつもりなのでしょう。
自衛隊体操を披露する陸上自衛隊中部方面混成団
自衛隊体操を披露する陸上自衛隊中部方面混成団
 安倍自民党政権のもとだからやってのけた暴挙です。このようなものが自治体、企業などに広まれば、まさに徴兵制の下地が出来上がります。このままこの問題を放置すれば、いずれ高校にまで拡大していくことでしょう。

 そもそも根本的には職員にこのような職務命令に従う義務などあろうはずもありません。まさに自衛隊に体験とはいえ、入隊を強要されるなど、思想信条の自由の侵害です。
 自衛隊は、憲法違反という見解も憲法学会では有力であり、しかも自衛隊としての特殊性があります。自衛隊は災害救助を主たる目的としているものではなく、その本質は殺人のための訓練をするところです。各種殺人のための兵器が並び、それに対し違和感を持つ人がいて当然です。

 ましてや行進、挨拶のための「入隊」ですか。自衛隊への体験入隊をしなければならないようなことですか。必要性など微塵もありません。このような職務命令が憲法に照らしても許されようはずもありません。(猪野亨公式ブログ 2016年5月27日分を転載)