リオ五輪開幕まで1ヶ月を切った(開会式は8月5日)。たいていは、工事の遅れを少々懸念しつつも、いよいよ開幕するオリンピックへの期待感が盛り上がってくる時期だ。ところが今回は様子が違う。この一週間、メディアで報じられたのは、「治安への不安」「ジカ熱や水質汚染などの環境不安」そして続々と表明される「出場辞退」のニュースだった。

ブラジル・サンパウロの路上に置かれた巨大な蚊のオブジェ=5月27日
ブラジル・サンパウロの路上に置かれた巨大な蚊のオブジェ=5月27日
 安心してリオに行けない、それほどの危険を冒してまでオリンピックに出場する気はない、というのが、辞退を決めた選手たちの理由だ。世界中でこれだけテロが頻発し、オリンピックもその標的になる可能性が否定できない中で、給与未払いなどの理由で警察が万全な警備を確約していないとあっては、いくら政府やIOCが「大丈夫だ」と言っても、保証はないと感じるのも当然だ。5月には、現地を訪れていたスペイン選手が市街で銃を突きつけられ、金品を奪われる強盗被害に遭ったと報じられた。このような情勢下では、出場辞退を決めた選手を非難できない。

 日本勢では、ゴルフの松山英樹が7月4日に正式辞退を発表した。ゴルフは1904年以来、112年ぶりに今回のリオ五輪からオリンピック競技に復帰した種目。それだけに注目もされているが、言い換えればトップ・ゴルファーにとって、それが全精力をかけて戦うべき価値のある大会かどうか、個人の価値観や事情によって大きく分かれるところだろう。世間的には(とくに日本では)、オリンピックでメダルを取れば、日頃ゴルフに無関心な人たちの関心も得ることができる。それなりのフィーバーも起こり、ゴルフ界にとっても、選手自身にとっても大きなプラスになるのは間違いない。だが、通常のゴルフ・ツアーに戻ったとき、オリンピックのメダルがその選手の価値をどれだけ高めるかは未知数だ。おそらく、マスターズ、全英オープンといったメジャー大会制覇と同列に扱われる日はすぐには来ないだろう。そう考えれば、ゴルフ界で世界の頂点を狙える場所にいる松山英樹が大きなリスクを回避するのは当然の判断と理解できる。リスクを冒してでも「オリンピック・ムーブメントに加わり、オリンピックが世界平和に貢献する一翼を担いたい」と思わせる実態も魅力もオリンピックにはないとも言える。

 もし本当に、「オリンピックはスポーツを愛する者が、世界の平和を実現するために集う四年に一度の平和の祭典だ」と、いま誰もが信じているなら、松山英樹は激しく非難されてもおかしくない。非難できないのは、オリンピックは残念ながら、平和への強い願いより、ビジネスの側面が肥大化し、誰の目にも競技とビジネスへの思いばかりが強く感じられるからだろう。