長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト)



 「日本人はロシア人に対して不信感を捨てられないのだね」

 ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク、ピュー研究所(Pew Research Center)がロシアとプーチン大統領への好感度と信頼度に対する調査を実施したが、それによると、日本は調査対象国40カ国の中で4番目にロシアに対する「好感度が低い」という結果が出た。友人はそれを聞いて、先述のコメントとなったわけだ。

 ピュー研究所は今年5月24日から27日の間、40カ国、4万5435人を対象にロシアとプーチン大統領への好感度、信頼度調査を実施した。その結果、ロシアへの嫌悪感が好感度より多い国は26カ国で、平均値は非好感度52%、好感度30%。プーチン大統領に対しては24%が「信頼する」一方、58%が「信頼できない」と答えている。

 ロシアに対して最悪のイメージを持っている国はポーランドとヨルダンの両国で80%だ。そしてイスラエルの74%。その次に日本が73%と続いている。ドイツとフランス両国は共に70%で第5位だ。参考までに、ロシアに対する好感度が最も良い国はベトナムで75%でトップ、そしてガーナ56%、中国51%と続く。

 ポーランドの場合、長い歴史の中でロシアから弾圧され、過去、プロイセン、ロシア、オーストリアに領土を分割され、国を失った悲惨な経験を味わっている。冷戦時代にはソ連の支配下に置かれ、弾圧された歴史もあるから、国民がロシアに対していいイメージを持てないのは理解できる。ヨルダンの場合、隣国シリアに対するロシアのアサド政権支持に対して、国民の反発が強い。シリアからの大量難民がヨルダンに殺到していることもロシアのイメージ・ダウンにつながっている。

第2次大戦終結70周年の記念式典で披露された劇の一場面。ソ連兵が日本兵に銃を向けていた=2015年8月29日、ロシア・ハバロフスク(共同)
第2次大戦終結70周年の記念式典で披露された劇の一場面。ソ連兵が日本兵に銃を向けていた=2015年8月29日、ロシア・ハバロフスク(共同)
 日本の場合、73%がロシアに対し悪いイメージをもち、好感をもっているのは21%に過ぎない。ポーランドと同様、日本も歴史的な理由を無視できない。ソ連が日ソ中立条約を反故して日本に侵入し、日本固有の領土である北方四島を不法占拠した。その一方、約60万の旧日本軍人や民間人をシベリアに抑留し強制労働に従事させ、6万人以上の抑留者が命を落とした。ソ連の後継国ロシアに対し、一般の日本国民が警戒心を解けず、批判的なのは当然だろう。

 ちなみに、読売新聞電子版によると、ロシア政府は10日、「クリル発展計画」を発表したが、それによると、北方領土を含む千島列島の社会基盤の整備と産業振興のため来年から25年まで10年間、約700億ルーブル(約1500億円)を投資するという。また、メドヴェージェフ首相が近日中に北方領土の訪問を予定しているという。ロシアは不法占領地の既成事実化を急いでいるわけだ。

 一方、プーチン大統領に対して、39カ国中、ベトナム(70%)と中国(54%)の2カ国だけが「信頼している」が過半数を超えた。平均は「信頼できない」が58%で、「信頼する」24%を大きく引き離している。特に、ウクライナのクリミア半島のロシア併合もあって、欧州のプーチン嫌いが突出している。例えば、スペイン92%、ポーランド87%、フランス85%、英国80%、イタリア77%、ドイツ76%と、いずれもプーチン大統領に対して「信頼できない」と答えている。日本はアジア地域ではオーストラリア(81%)に次いで、プーチン氏への不信感が強く、71%だ。

 プーチン大統領の年内訪日が囁かれているが、不法占領の北方領土に対して、同大統領は「4島に対するロシアの主権は第2次世界大戦の結果」と主張し、返還する意思のないことを明らかにしている。それだけに、同大統領が日本を訪問したとしても、どれだけの成果が期待できるかは不明だ。8月は北方領土返還運動全国強調月間だ。

 いずれにしても、戦後70周年を迎えたが、日本国民のロシアとプーチン大統領への不信感は想像以上に強いことが今回のピュー研究所の世論調査結果で明らかになったわけだ。

(2015年08月13日「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より転載)