石川幹人(明治大学情報コミュニケーション学部教授)


水素ブームに便乗商法


 クリーンな新エネルギーとして水素が注目される中、水にも「水素水」なるものが登場し、脚光を浴びている。筆者のところにお中元・お歳暮として毎年送られてくるボトル入りの水も、これまで「天然水」という名称だったものが、昨年から「水素水」という名称に変わった。表示を読んでも、中身が変わっているようには見えないので、「水素」をうたったほうが売れるとの営業戦略だろう。水は水素と酸素の化合物なので、「水素水」という名称もあながちウソでもない。

 最近は、「水素化粧水」「水素クリーム」から「水素ラーメン」まで販売されており、水素ブームは暴走中の感がある。

 水を電気分解すると、陰極側から水素気体、陽極側から酸素気体が生じる。このとき、陰極側の水が電解還元水と呼ばれる。この水を「アルカリイオン水」と称して生成器を売っていたメーカーも、現在は「活性水素水」と名称を変更して生成器を販売している。これに着目すると、化学的には「水酸イオンが豊富な電解還元水」が「水素水」とされているようだが、別の説もある。

 水素気体が発生する水を「水素水」とする説である。

 そもそも水素気体は水にほとんど溶けない。分子が小さく、わずかに水に溶けたものも、放っておくとすぐに抜けてしまう。それでも、うまく水を管理して、水素気体がわずかに溶けた状態の水を飲むと、水素気体が体内に取り込まれ、体によい作用をするというのだ。

 電気分解した陰極側の水には水素気体がわずかに溶けているだろうから、アルカリイオン水を水素水とすることとも整合性が感じられる。だが、ちまたで売られている水素水生成器の中には、電池で水を電気分解するだけで陰極側と陽極側が分離されない装置もある。これでは、イオンが中和されてしまうだけでなく、水素気体とともに酸素気体も発生して水に溶け込む。両方を同時に吸い込んでも、「水素水」と呼んでいいのだろうか。

 このように、水素水の定義が混乱しているまま、いろいろな商品が販売されている状態である。

 一方、いくつかの疾患の治療時に、水素気体を吸入させることで病状の改善に効果があるという指摘があり、医学研究がはじまっている。さまざまな実験がなされており、効果が検出できたという報告も、効果が検出できなかったという報告もなされている。

 実験や分析の不備がないとすれば、一部効果が検出できたことは注目に値する。しかし、人間の身体機能は複雑なため、ある特定の条件がそろったときにわずかな効果があったにすぎないのかもしれない。どのみち、その特定の条件が判明しなければ実際に使うのは難しい。