効果の作用機序の理論がない

 この水素気体の医学研究は、まだ試行錯誤の状態である。薬理効果の医学研究では、長年の臨床試験を通過してはじめて実用化に至るのと比較して、現在水素水が実用化されているとすれば、時期尚早の感は否めない。

 水素気体の人体応用については、効果が検出されたというデータが集まりはじめているが、それらを説明する理論がない。抗酸化作用という当初の仮説では、現状のデータを説明しきれない。そればかりか、「腸内細菌には水素気体を発生させる菌がいるので、水素気体を吸うだけで効果があるのはおかしい」という対抗理論さえある。

 科学の現場では、妥当な理論が構築できていない段階ではふつう、市民への成果応用は控えるものである。なぜなら、理論がなければ、「どのような問題を抱えている人が、どの程度の量を摂取したら、どのくらいの確率で改善するか、それに伴い予想される副作用はないか」などが、推測できないからである。

 その意味で、水素気体の医学研究は今後の発展が期待されるものの、現状ではまだ科学として確立されていない段階と判断される。

 科学としての要件について詳しくは、拙書『なぜ疑似科学が社会を動かすのか~ヒトはあやしげな理論に騙されたがる』(PHP新書)を参照いただきたい。

 医療の現場では、十分に理論が確立していない薬品が処方されているではないかと、医師から反論が来るかもしれない。しかし、医薬品は病人に処方されるという、特殊事情があることが指摘できる。病人の場合は、病気を治癒する必要があり、病気であるという現状が続くことのほうがデメリットなのである。そのため、治癒の可能性が低くても、あるいは副作用があったとしても、かりに治癒した場合のメリットが大きいので、理論が確立していない薬品であっても、あえてリスクに賭ける意義がある。

 それに対して食品の場合は、健康な人々が摂取するので、現状が維持されることが前提となる。そのため、十分に理論が確立していない成分を、薬品のように摂取することは効果がないばかりか、隠れた副作用がある恐れが指摘できるので、控えたほうがよい。

 水素水は人々の健康維持が目的とされているようであるから、健康食品に準じた扱いをすべきだろう。食品の場合、安全性は長年食されているという歴史によって担保されるという考え方になっている。水素水のように、これまで摂取してきた経験のない物質の持続的な摂取については、極めて慎重になるべきである。

 そしてそれは、水素水に限らず、目新しい食品成分を高濃度で摂取する他のサプリメントも同様に抱えている問題点と言えるのだ。