大澤郁朗(東京都健康長寿医療センター研究所研究副部長)


 水素水に限らず、健康食品の宣伝はいたるところに溢れている。昔から医食同源という言葉に代表されるように食は健康維持に最も大切な要素だ。だから「身体に良い」とされる食品に簡単にだまされてしまう。悪魔の言葉は、「神秘の力」、「◯△大学医学博士のお薦め」、「私はこれで病気が治った」など。

 こんな言葉で宣伝されている商品には決して手を出してはいけない。「神秘」とは得体が知れないということであり、「何とか博士」はどこの馬の骨だろう?「私はこれで」とは他の人には効かないという意味だろうか。
 
 水素分子は酸素分子と反応して水になる。だから還元力がある。中学校理科の授業だ。高校の化学で活性化エネルギーについて習うと、こんな反応が身体の中で起こることはないと知る。水素分子の抗酸化効果?何を馬鹿な!直感的にそう思った。

 生物学や医科学に携わる科学者の大半は実験研究者である。数式では予測できないほど複雑な生命と身体の仕組みを知るには、実際に起こった現象から理屈を考えねばならない。実験こそが命なのだ。

 10年以上も前のこと、私が日本医科大学太田成男教授の研究室に在籍していた当時、培養皿の上で増やした細胞に水素分子を添加し、酸化ストレス障害を与えてみた。翌日のぞいてみると驚いたことに水素分子を加えた細胞のダメージが小さかったのだ。何か間違えたのだろうか?

 様々な方法と条件で水素分子の効果を試してみたが、結果は同じで細胞障害を抑制する。こうなると生体で酸化ストレス抑制作用があると考えなくてはならない。まだ半信半疑の私と違い、太田教授は早々に確信を持たれたようだ。実際、動物を使った脳梗塞のモデル実験で水素ガスを吸わせると虚血再灌流障害が緩和された。