開く「洋ゲー」との差 凋落著しい元ゲーム王国・日本

『月刊Wedge』 2014年10月号

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稲田豊史(編集者・ライター)


 かつて日本のゲームは世界を席巻していた。コンテンツ産業代表格、ゲームの今を追う。


 1990年代から2000年代初頭にかけて、日本のゲームメーカーは綺羅星のごとく世界を席巻していた。

 しかし13年、世界でもっとも売れたゲームソフトは米ロックスター・ゲームス社製の『グランド・セフト・オート(GTA)V』だ。9月17日の発売日から6週間の出荷本数は、プレイステーション3(PS3)版とXbox 360版を合わせてなんと2900万本。14年3月までの販売本数は3300万本に達している(いずれも発売元発表)。驚異的な数字である。対して13年度の国内販売数ベスト1である『ポケットモンスター X・Y』(任天堂)の世界での販売本数は1200万本近く、(14年4月の海外向けリリースによる)。『GTA V』の3分の1強に留まっている。
Xbox版とPS3版を合わせると、「Grand Theft Auto V」は約3000万本 「Call of Duty:Ghost」は約1500万本を売り上げている

据え置き機用のゲームソフトだけでみると、海外ゲームの「Grand Theft Auto V」が1位
 現在の世界市場を席巻するのは紛れもなく海外ゲーム、いわゆる「洋ゲー」だ。その大きな特徴が、莫大な製作費である。たとえば『GTA V』の場合、製作費はなんと2億6500万ドル(約270億円)。ハリウッド超大作の映画『パシフィック・リム』の製作費が200億円程度なので、それをはるかに凌駕する規模だ。
日本のゲームにはない魅力


 市場が世界だからこそ打てる博打である。「海外の大作ゲームは、5年かけて100億円以上費やして製作し、世界で500万本売れればペイ、みたいな世界。日本のメーカーは到底太刀打ちできない」─。そう語るのは、今年6月に日本発売された海外ゲーム『ウォッチドッグス』(ユービーアイソフト)の日本語版翻訳監修を担当した脚本家の佐藤大氏だ。日本のゲームはその大半が日本人固有の嗜好に合わせて作られているため、マーケットが国内に限られてしまう。

米国で1年に1度開催される、世界最大のコンピューターゲームイベント「E3」 (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)
 『GTA V』は「ゲーム内に作られた架空の州で主人公が自由に動きまわり、様々な犯罪に手を染める」という内容のゲーム。製作費をかければかけるほど、3DCGで作り込むゲーム内の世界を広くして、細部までリアルに描くことができる。製作費が作品の魅力に直結しているのだ。

 ちなみに同作にはハリウッド女優のリンジー・ローハンをモデルにしたと思しきキャラクターが登場するが、CGがあまりにリアルで似ていたために当のリンジー本人が激怒。発売元を訴えるという珍事件も起こった。

 もう1つ、日本のゲームにはない魅力が、過激な表現だ。多くの海外ゲームでは、プレイヤーが様々な武器を駆使して殺人等の犯罪行為を行うことができる。バイオレンス映画さながらの残酷な流血描写が含まれるものも多く、公共施設の破壊や器物破損もお手の物。そのため、販売に際しては海外でも日本でも年齢制限が設けられているが、国内のゲームに飽きた日本のコアなゲームユーザーが、刺激を求めて海外ゲームに流れている一側面もある。
「GTA V」のゲーム画面。1つの州の街、山、海等の景色が、驚くほどリアルにつくられている (ROCKSTARGAMES/CAPCOM)
ハリウッドとの蜜月度も高い


 海外ゲーム業界はハリウッドとの蜜月度も高い。『バットマン』や『トゥームレイダー』をはじめとした映画のゲーム化、ゲームの映画化が絶え間なく行われているほか、13年11月に発売され、年内に世界で1400万本以上を販売したゲームソフト『コール オブ デューティ ゴースト』は、アカデミー賞脚本家のスティーヴン・ギャガンがストーリーを執筆して話題を呼んだ。有名俳優がゲームにCGとして登場するケースもある。若者の映画離れが進み、DVD等のパッケージソフトの売上も右肩下がりで苦しむハリウッドとしては、勢いのあるゲーム業界に近づいておいて損はないというわけだ。

同じく「GTA V」のゲーム画面(ROCKSTARGAMES/CAPCOM)
 佐藤氏は、海外ゲームソフトメーカーとのビジネス経験からこう語る。「今や北米のCGクリエイターの間には、映画会社に就職するよりゲーム会社に就職したほうが良い仕事ができるという認識があります。有名ゲームにスタッフとして参加してから、その輝かしいキャリアを携えて映画業界に行く人も増えていますね」。

 親和性が高いのはハリウッドだけではない。たとえば『GTA V』をプレイ中に、ゲームの世界にあるラジオから流れる曲はすべて現実に存在する既存曲であり、使用料ビジネスが生まれている。リアルな世界観を構築するためには実在のアーティストが発表した曲であることが重要、という開発側の判断だが、もう1つ。音楽業界側がプロモーション目的でゲームに楽曲を提供することもあるのだ。

 「『GTA V』のように、ゲーム内の世界が広大に構築されているゲームは、一度はじめると何時間にもわたってその世界に居続けることができるので、そこで目に入る商品や、BGMとして鳴り続けている音楽をつい買いたくなってくるんです。一種の洗脳ですね(笑)」(佐藤氏)。昨今のゲームは、ネットやTV以上にプロモーションメディアとして優秀なのだ。
世界での日本市場の地位低下


世界での日本市場の地位低下


 一方、日本における海外ゲームのユーザー数ははそれほど多くない。海外事情に詳しく、『ゲームになった映画たち 完全版』(マイクロマガジン社)という編著もあるライター・編集者のジャンクハンター吉田氏はこう推測する。「国内の海外ゲーム人口は多くて20万から30万人。そのうちヘビーユーザーは5万人くらいで、最も濃いマニアは2万人程度しかいない」。

 実際、世界一売れた『GTA V』ですら、日本における13年の販売数は60万本程度。世界売上の3000万本からすると日本の市場シェアはたったの2%ということになる。英ガーディアン紙は今年2月、「日本市場は02年に世界のゲーム市場の50%を占めていたが、10年には10%にまで低下した」と報じている。日本市場の地位はここ10余年で急降下しているのだ。

 そのため、海外のゲームメーカーは近年、日本市場をかなり軽視している。その証拠に、マイクロソフトが13年11月22日に欧米ほか世界で発売したゲーム機「Xbox One」の日本発売は、遅れに遅れた9カ月以上あとの14年9月4日。「そもそも日本には海外ゲームメーカーの日本法人が少ないんです。『コール オブ デューティ』シリーズのアクティビジョン社も、08年に日本から撤退しました。そこそこ大きな作品であっても、日本では売れないからといって、日本語版を製作しない海外ゲームもあります」(吉田氏)。

 実は日本のメーカーであるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が発売したゲーム機「プレイステーション4」の日本発売も、北米リリース(13年11月15日)から約3カ月後の14年2月22日だった。国内メーカーまでもが国内市場を軽視しているのだ。
日本メーカーであるSCEでさえ、PS4の販売を遅らせるほど、日本市場は縮小している (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)
 海外製ゲームが日本で売れない理由の一つが、日本ではここ数年、据え置き型ゲーム機より携帯型ゲーム機が優勢であるという市場特性だ。

 00年代前半以降、日本では通勤や通学時に手軽に遊べる携帯電話のゲームや携帯型ゲーム機にゲームの潮流が移っていった。対する北米などでは車での通勤・通学が多いので、携帯ゲームは日本ほど浸透せず、リビングでやる据え置き型ゲーム機が根強い人気をキープし続ける。よって海外展開する超大作・話題作は基本的に据え置き型ゲーム機用として開発されるのだ。

 もう1点。特に00年代後半の米国において据え置き型ゲーム機は、単なるゲーム専用機とは思われていなかった。PS3やXbox 360といったゲーム機には、ネットフリックスやHuluといった映像配信サービスを受けられるアプリが用意されているため、「息子が買ったPS3で、父親が配信で映画を観る」といったシチュエーションが成立したのだ。いまだパッケージのDVDレンタルが主流の日本では、このようなことになりそうもない。
「ゲーム王国ニッポン」の凋落


「ゲーム王国ニッポン」の凋落


 海外ゲームが国内で売れないだけでなく、日本製のゲームもかつてほど海外では売れていない。吉田氏は、日本のゲームが世界で勝てなくなってきた時期を00年代初頭と指摘する。きっかけはプレイステーション2(PS2)の発売だ。

 「00年3月に発売されたPS2はマシンの性能が飛躍的に上がったため、性能に合わせたゲームソフトの開発に、より多くの費用、時間、そして人員が必要となりました。だけど開発費が2倍になったからといって、ソフトが2倍売れるわけじゃないですよね」。そんな状況下、01年にNTT docomoのiアプリが登場し、大ブレイクを果たす。ライトなゲームユーザーは、何千円もする重厚長大なゲームソフトから離れ、月額たった300円で楽しめる手軽なミニゲームに余暇時間を割くようになったのだ。携帯電話の爆発的な普及期であったことも、その傾向に拍車をかけた。

 PS2にDVD再生機能が搭載されていた点も無視できない。当時はまだ高価だったDVD専用プレーヤー代わりの「最も安価なDVDプレーヤー」として、PS2で映画ソフトを観るユーザーが激増。皮肉なことに、PS2自身が消費者をゲームから遠ざけたのである。

プレイステーション 2 (PS2)
 開発費が上がり、しかもかつてのようにソフトが売れないとなれば、ゲームソフトメーカーの経営は守りに入る。野心的・革新的な企画よりも、堅い売れ行きが見込める無難な企画が多くなるのは当然の帰結。この時期からゲーム業界は「従前のヒット作の続編」や「有名アニメの原作もの」ばかりを連発するようになる。

 下手にオリジナルの新作を開発するより続編を作った方が安全。たとえ前作の8掛けしか売れなくても、大コケするよりまし─そんな考えがゲームソフト業界を覆っていった。実際、「90年代にはゲームっ子だったのに、PS2発売直後くらいからゲームから離れた」という現在20~30代の男性は多い。00年代前半に新鮮味のないソフトばかりが発売され、うんざりしはじめたのだ。当然、「ゲーム王国ニッポン」の海外での評判も、徐々に陰りが見え始める。

 そんなとき、彗星のごとく登場したのが、01年10月にPS2で北米版が発売された『グランド・セフト・オートⅢ』だった。「自分が悪役になれる。街を自由に動きまわれる。大人が遊べる画期的なゲームだった」(吉田氏)。

 『GTA Ⅲ』の世界的ヒットを機に、海外ゲームの市場は急伸長を遂げていく。のちに『GTA』と並ぶ大ヒットシリーズに成長する『コール オブ デューティ』の1作目が登場したのは2年後の03年。以降、世界市場における日本と海外の地位は逆転する。

 実は14年現在に至るも、国内ゲーム業界の状況は当時とそれほど変わっていない。莫大な製作費を安全に回収するためには、続編か人気アニメ原作しか企画を通せないのだ。

 もう一つ、日本のゲームが世界と戦えない要因がある。「どうやってマネタイズするか、といったビジネス面が後れている」(佐藤氏)というのだ。

 例えば海外ゲームは、企業広告や商品名をゲーム中に表示させるプロダクトプレイスメントに積極的だが、日本ではあまり浸透していない。「日本におけるゲームは、まだまだ『趣味』。アメリカでは『産業』であり『文化』。趣味にはスポンサーという考え方がないですし、日本のユーザーはそういった商売っ気を毛嫌いするので、根付きませんでした」(吉田氏)。

 また、海外ゲームには出資を得るためのファンドが存在するが、日本にはほとんど存在しない。ファンド会社が少ないという事情もあるが、そもそもエンタメ作品の収益性を正当に評価できる人間が金融業界に少ない、という事情もある。

 さらに、アメリカでは娯楽産業の法律まわりを専門に請け負う法律家である「エンタテインメント・ロイヤー」という職業が確立しており、彼らとエージェントがタッグを組んで、資金集めや契約、マーケティング、プロモーションなどを行っている。日本のゲーム業界が世界に打って出るには、まずはビジネスのプロを育成するところからはじめなければならない。
「五右衛門風呂」から脱出せよ


「五右衛門風呂」から脱出せよ


 日本の携帯電話産業はガラパゴス化の末に国際競争力を失い、「ガラケー」と揶揄されるまでになってしまった。結果、日本ではアップルのiPhoneやサムスンのGalaxyといった海外製端末が市場を席巻している。

 現在の国内ゲーム市場も、完全にガラパゴス化しているといってよい。日本製ゲームはごく一部を除いて海外では売れず、海外展開に積極的なメーカーはコナミやカプコンなどごくわずかだ。

 これで国内ゲーム市場が順風満帆であればガラパゴスであっても問題ないのだが、無論そうではない。13年の家庭用ゲームソフト市場は約2537億円(CyberZとシード・プランニング共同調べ)。これはスマートフォンゲーム市場の5468億円の半分以下。この小さな、しかも縮小の一途をたどっているパイを、任天堂やセガ、コナミやカプコンといった大手ゲームメーカーがとりあっているのだ。

 これはまるで、小さな五右衛門風呂にぎゅうぎゅうに詰め込まれたゆでガエルのような状態だ。狭いスペースの争奪戦。しかもお湯は煮えたぎり、苦しみが増すばかりの我慢大会である。しかし世界には大きな市場が広がっている。ガラパゴス化を食い止め、世界市場に打って出るためには、狭苦しい湯船から脱出する覚悟が必要だ。

 日本ゲームが世界を席巻し、再び「ゲーム大国」に返り咲く日は、果たして来るのだろうか?

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