急拡大するソーシャルゲーム 世界で勝てない日本のゲーム業界

『月刊Wedge』 2011年9月号

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 [WEDGE REPORT]


WEDGE編集部


 米アップル社のApp StoreからダウンロードするゲームやFacebook内で仲間と楽しむソーシャルゲームの市場が急拡大している。一方で家庭用ゲームの市場は縮小の一途を辿り開発者たちも次々と家庭用からソーシャルゲームに鞍替えしている。家庭用ゲームが消滅するわけではないが、旧来型の開発体制や流通構造を見直さなければ「クールジャパン」の象徴であるゲーム業界は世界で勝てない。


 「発売から半年も経過せずに、しかもこれほど大幅な値下げをしたことは、任天堂の過去の歴史にはありませんでした」

 2011年度に全世界で1600万台という目標を掲げながら、4~6月の販売数が71万台と販売不振に苦しむ、任天堂の最新携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」。打開策として同社は7月28日に1万円の値下げを発表した。冒頭の言葉は、そのことに触れた岩田聡社長の弁である。年末には、ビッグタイトルを投入することで巻き返しを図ると宣言したが、株価は下げ止まらず5年10カ月ぶりの水準にまで落ち込んだ。

 「お客様から(中略)ご期待いただいている水準に達していないと、深く反省するとともに、心よりお詫び申し上げます」

 累計販売数は1億本以上。日本を代表するゲームである「ファイナルファンタジー(FF)シリーズ」。その、最新作FF14(Windows版)の発売から2カ月後の昨年12月10日。発売元のスクウェア・エニックスの和田洋一社長は、謝罪コメントと、プロデューサーの更迭を発表した。家庭用ゲーム機プレイステーション3版の発売時期は未定のままだ。

6750万人が遊ぶゲーム


 トラブル続きの日本のゲーム業界。「クールジャパン」の代表格だが、「世界一」とは言えない状況だ。

 1990年代後半、日本の家庭用ゲームソフトは欧米市場で半数近いシェアを占めていたが、最大の北米市場でも3割まで低下した。10年、日米英で任天堂の「ニュー・スーパーマリオブラザーズ・Wii」は580万本販売されたが、最も売れたのは米国のActivisionが発売した「Call of Duty: Black Ops」で1540万本だった。ニンテンドーDSは全世界で1億4000万台以上売れたが、ユーザー数が7億人以上とされる世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)Facebook内では数千万人が遊ぶ「ソーシャルゲーム」がいくつもある。

 ソーシャルゲームとは、基本的に無料で1人でも遊べるが、他人と協力し、課金アイテムを購入することで、有利に進められるゲームだ。代表的なのは、アメリカのZynga(ジンガ)社が提供する「FarmVille」で、ユーザー数は6750万人(10年月間平均)である。

 「ソーシャルゲームとかネットの世界が盛り上がる一方で、任天堂はパッケージソフトが中心。自分のやりたいことができないから会社を辞めました」

 こう語るのは、約10年働いた任天堂を退社し、08年にゲーム開発会社entersphere(東京都・町田市)を立ち上げた岡本基氏である。岡本氏は、任天堂の情報開発本部でフィットネスゲーム『Wii Fit』のトレーニング及びバランスゲームの内容を考える、トレーニングディレクターなどを担当していた。現在は、会員が150万人を越えるソーシャルゲーム「ヱヴァンゲリヲン」などのヒット作品を手がけている。
拡大するソーシャルゲーム市場


 右表のように、ソーシャルゲームの市場規模は今後拡大が見込まれる。家庭用ゲームが主力の世界最大規模のゲームソフトメーカー、米Electronic Artsは1000人規模のリストラを実施する一方、ソーシャルゲームなどに強いPop Cap Gamesを7月に買収。国内SNS大手のグリーも、米大手ソーシャルゲーム関連のOpen Feintを今年の4月に買収した。

 家庭用ゲームソフト大手のカプコンで、「ロックマン」シリーズなどを手がけた名物クリエーターの稲船敬二氏は同社を退社し、昨年12月に「comcept」を設立。今年の秋にソーシャルゲームの新作を出すと発表した。

 一方、苦戦しているのが家庭用ゲームだ。国内の家庭用ゲームソフト市場は10年近く3000億円前後で推移。海外市場も、08年には米国で1兆2000億円、欧州で1兆円前後あった市場規模がそれぞれ10年には、1兆円、8000億円まで下落した(ファミ通ゲーム白書2011より)。上表のように、今後も下落を続けるという調査結果もある。

 簡潔にいえば、1台数万円するゲーム機と、4000~6000円のゲームソフトを購入して初めて遊べるのが家庭用ゲームの特徴だが、ソーシャルゲームはパソコンや携帯電話、スマートフォンで遊べる。

 スマートフォンにネット上からダウンロードして遊ぶゲームも一般的になった。無料のものが多く、有料でも1本100円~1000円台が大半だ。家庭用ゲームは、実際に遊んでみないと楽しさが分からないというリスクがある。値段が安ければ、面白くなくても懐は傷まない。価格の点でも家庭用ゲームは不利な状況である。

 通信規格が3G以上の携帯電話は、日本ではほぼ普及率が100%だが、いちよし経済研究所の調べでは、北米では10年の59%から15年には95%へ、西欧でも47%から80%に達する見込み。スマートフォンの普及率も、日本が7%から80%、北米で33%から84%、西欧で24%から56%と予測されている。ソーシャルゲーム市場はますます拡大していくだろう。
ユーザー目線なき流通構造


ユーザー目線なき流通構造


 「メーカー、流通、ゲーム雑誌の関係を見直さないと、日本の家庭用ゲーム産業は負のスパイラルから抜けられない」

 あるゲームソフト会社社長は、ゲーム業界の状況をこう憂えた。象徴的事例が、昨年12月に発売されたニンテンドーDSのゲームソフト「二ノ国 漆黒の魔導士」である。

 「二ノ国」は、スタジオジブリがアニメーション作画、久石譲氏が音楽、企画・制作を「レイトン教授」シリーズ等のヒットを飛ばすレベルファイブが担当。NHKスペシャルの「世界ゲーム革命」でも紹介され、業界団体主催の日本ゲーム大賞「フューチャー賞」を受賞。ゲーム雑誌大手の『週刊ファミ通』において、「プラチナ殿堂入り」するなど高評価を受けた。

 だが、発売初週の消化率(出荷本数に対して売れた割合)が33%と低迷。家庭用ゲームソフトは小売店の買い取りが基本なので、在庫消化のために安売りの対象となった。

 近年の家庭用ゲームの不振から、新作が手堅く売れるシリーズ物に偏重するなか、ヒット確実視の作品が躓いたことは、「市場の縮小傾向に拍車をかけた」(関係者)との指摘がある。

 「二ノ国」は業界内で評判が良かったが、過剰に小売店が仕入れた原因の1つは、「仕入れ担当者がゲーム雑誌の評価やメーカーの実績をもとに仕入れる量を決めている」(ゲームソフト会社幹部)点にある。

 ゲーム雑誌で高評価を得る要素は、単純にゲームの面白さだけではない。「ゲーム雑誌にとって、メーカーは広告のクライアント。雑誌とは別に、人気ゲームの攻略本は数十万部売れるドル箱で、出版にはメーカーの協力が必要。ビッグタイトルに低い点数はつけにくい」(関係者)事情があり、ユーザーの視点がないがしろにされやすい面がある。

 また、「メーカーも、高評価を得るため過剰に広告費を支払っている面もあり、しわ寄せが開発費にきている」(前述のゲームソフト会社社長)。

 メーカー、雑誌、小売りの都合が優先され、業界とユーザーの間に距離感が生まれている。
開発現場は町工場レベル


開発現場は町工場レベル


 「日本のゲームソフト開発現場は、言葉は悪いですが町工場レベル。合理的な開発スタイルを採用した海外勢に追いつかれてしまった」

 家庭用ゲームソフトの開発を行うゼロディブ(東京都・千代田区)の原神敬幸社長は、こう警鐘を鳴らす。

 海外のゲームソフト開発の現場では、「ゲームエンジン」と呼ばれる、主要な処理を行う共通プログラムが普及している。例えば、ゲーム上で人間が「歩く・走る」といった動作を一からプログラムする必要がなくなり、開発の省力化につながる。その分、操作のし易さや、効果的な演出など、「ゲームをいかに面白くするか」という部分に専念できる。

 「日本の開発者は、人間の動作ひとつにも細かいこだわりを持ち、一からプログラムしなければ気が済まない人も多い」(原神氏)ため、海外勢にあっという間に開発ノウハウの面で追いつかれたという。

 開発プロセスも内向きだ。アメリカでは、多数のテストプレーヤーを雇い、上げられた声を開発にフィードバックする。冒頭で紹介したファイナルファンタジーの謝罪文において、プロデューサーの田中弘道氏は「構造的な問題でユーザーの皆様からのフィードバックを迅速に反映することができませんでした」と述べている。同社広報も「発売前にテストプレイは実施した。だが、その意見を十分反映できた訳ではなかった」と語る。日本のゲームソフトは「プロデューサーの作品」という色合いが強く、開発に外部の目が入りにくくなっている。

 リスクの少ない国内に安住し、海外の市場開拓を怠った面もある。家庭用ゲームの黎明期、国産ゲームは黙っていても海外で売れた。だが、ゲーム機の性能向上に伴い、表現方法が多様化し、国ごとの好みがはっきりと分かれてきた。

 現地のニーズを取り入れるため、海外スタッフの活用を試みたが失敗も目立った。「何でも言うことを聞く国内協力会社との仕事が中心のプロデューサーも多く、言語や文化の違うスタッフを満足に使いこなせなかった。数十億円の損失を出した会社もあった」(業界関係者)。成功事例もあるが「リスクを冒すより利益の出る国内市場に注力しようという雰囲気だった」(前述の業界関係者)という。

 日本のメーカーにとって、国内市場は今も重要な位置を占める。だが、旧態依然とした体制を温存したままでは、海外に打って出る力を蓄えられないばかりか、国内ユーザーにも見限られるだろう。

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