世界が遠ざかる日本のゲーム業界 救世主は任天堂しかない!

『小野憲史』

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小野憲史(ゲームジャーナリスト)

 ゲームは誰が作っているのだろうか? 答えは会社員である。日本には漫画・小説・アニメ・映画・音楽・演劇など、さまざまなポップカルチャーが存在する。しかし企業に雇用されたクリエイターが主体となってコンテンツ作りを行う業界は他に存在しない。このことが、いわゆる日本型雇用形態とあいまって、多くの人事担当者を悩ます遠因になっている。

 日本型雇用形態は新卒一括採用・年功序列による昇進・終身雇用制度などを特徴とする。良く知られているように、これらは高度経済成長期では効率的だったが、ひとたび経済が停滞期すると矛盾が噴出する。社会全体で正規雇用と非正規雇用(契約社員・派遣社員)の二極化が進展していることは、その一例である。これには企業が正社員を解雇することは極めて難しい点が背景にあり、リストラを巡る悲喜劇の温床になっている。

 もっともゲーム業界の黎明期では、こうした問題は見られなかった。ゲーム開発に求められる技術が今よりシンプルだった、開発体制が小規模で、新人でも実務を通してさまざまな職種を体験できる機会が多かった、業界が右肩上がりだったため、転職や独立も容易だった―などが原因だ。しかし、プレイステーション2が発売された2000年ごろから、状況がかわってきた。
 最大のポイントはゲーム開発の大作化だ。ゲーム開発は少数の核となるチームで企画が練られ、開発が終盤になるほどスタッフの数が増加する。そのため多くの企業では、複数のタイトル開発を、時期をずらして行うことで作業の効率化を進めてきたが、ゲームの大作化に伴ってライン数が減少した。これにより業界内で契約社員や派遣社員の割合が急増したのだ。近年では人件費圧縮を目的とした、海外企業との協業も一般的になっている。

 技術革新の速度が速く、常に技術研鑽が求められる一方で、社内での昇進やキャリア制度が未整備な点も問題を複雑化させている。これには、中小企業が多い業界構造や、ゲーム開発のノウハウが属人的になりやすく体系化が難しい、技術や人材の流出を恐れるあまり業界横断的な技術共有に保守的な特性、ヒット作の有無で企業の業績や市場の動向が影響を受けやすく、中長期的な経営戦略が立てにくい―などが背景にある。
陳腐化し、上書きされていく最新技術

 特に過去10年間は業界の激変期で、家庭用ゲームからフィーチャーフォン、スマートフォンとトレンドが激変し、そのたびに基盤となる開発技術やゲームの開発ノウハウが変化した。最新技術がどんどん陳腐化し、上書きされていくのだ。その一方で手本となる教科書はどこにも存在しない。こうした状況では社員の自発的な自己研鑽が、最も効果的な人材教育の手法になりやすい。しかし、それが恒常的にできる人材はわずかだ。

 こうした背景から、企業には優秀な人材ならいつでも、誰でも歓迎だが、実際の採用は消極的になりがちな傾向がみられる。しかも求める人材像が「自ら問題を発見し、解決策を見つけられる人」「現時点での能力もさることながら、伸びしろがある人」といった、抽象的な内容になりやすい。特にゲームの企画職についてはこの傾向が強く、どの企業も頭を悩ませているのが実情だ。「おもしろさ」を定量的に計る手段が存在しないからだ。

 一方で業界には、ヒットを記録して業績が急成長した結果、とにかく人材不足という企業も存在する。こうした企業は「経験者即歓迎」という状態になりやすく、しばしば転職市場で年俸バブルを引き越す。それにつられて人材が集中するが、次第に人件費が業績を圧迫し始め、リストラに直面するのが常だ。もっとも、その頃には別の企業がまた新しいバブルを引き越し……。こういったサイクルを業界は何度も経験してきた。

 これがアメリカのように人材の流動性が高い、言い替えれば企業が社員を解雇しやすい社会では、企業はトレンドの変化にあわせて社員を解雇し、新たな人材を雇用できる。人材の入れ替わりが前提となるため、知見の共有やマニュアル化も進展する。2000年代以降、ゲームの大作化にともなって、日本にかわってアメリカのゲーム産業が世界を牽引するようになったのには、こうした理由もある。
人材の流動性が低いからこそ生まれる「社風」

 もっとも人材の流動性が低いからこそのメリットもある。企業内に暗黙知が蓄積されやすく、それが企業ごとの特色、すなわち「社風」となって開発に反映されるため、世界に一つしかないユニークなゲームが生まれやすい点だ。この点において「日本語」というニッチな言語を主体とする日本企業は、世界の中で大きな可能性を秘めている。この頂点に位置するのが京都に本社をおく任天堂だと考えればわかりやすいだろう。
 ここで改めて指摘しておきたいのは、日本的な雇用慣行がゲーム開発に影響を与えているとしても、そこには善し悪しがあるということだ。そのため企業には人材の流動性が低くなりやすい日本社会の現状や、技術革新が非常に早く自己研鑽が求められがちなゲーム業界の現状を念頭に置いた上での、現実的な採用計画や採用手法が求められる。それが実現できなければ、企業の将来も危うくなる。

 中でも重要なのは、暗黙知に陥りやすい企業のノウハウ、言い替えれば「社風」をできるだけ明文化していくことだ。前述したように企業が社員に求める人物像は、どこも比較的似通っている。その一方で社風は企業ごとに異なっており、社員の行動規範に対して間接的な影響を与えている。いわば社風は創造性を育む温床だといえる。逆にどれだけ優秀や人材でも、社風にそぐわずに短期間で離職する例は少なくない。

 問題は社員が社風を当たり前と捉えがちな点だ。そのためには他社からの転職組の体験談が参考になる。どのような理由で転職を決め、企業に対してどのように適合していったのか、社内でヒアリングを行うのだ。これはまた、転職者の精神的なケアにもつながる。これらはゲーム業界に固有の問題ではないが、ゲーム業界では特に必要だともいえる。ゲームは人が作るものであり、会社にとって人材は最大の資産だからだ。

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