銀座の松坂屋で私がチャンピオンシップを実演してゲーム画面を見てもらうことになったのですが、1000人ぐらいの子供が集まって、イベントは大成功を収めました。実演を終えた私の前に200人ぐらい並んでいるので、「どうしたの?」と聞いたら「サインが欲しい」と言われて驚きました。サインなんか書いたことないので途中で疲れてきて、1日3回もサインが変わりました。コロコロまんが祭りには、ハドソンの将来を占うイベントということで役員が大勢来ていましたが、打ち上げで社長が「これを全国各地でやったら面白いんじゃないか」という話が持ち上がり、7月に「ハドソン全国キャラバン」がスタートすることになりました。それまでゲーム大会というのは各店舗の店頭でこぢんまりとやってるのが多かったんですけど、全国レベルで日本一を決める大会は全国キャラバンが最初だと思います。

ハドソン宣伝本部宣伝部在籍当時の高橋名人=2009年10月07日
ハドソン宣伝本部宣伝部在籍当時の高橋名人=2009年10月07日
 「ハドソン全国キャラバン」を行う上で話し合いを重ねて行くうちに、ラジオ体操の先生みたいに実演をする人がいるという話になったんです。まだ昔社員数が少なかった時代ですので、宣伝部のファミコン担当がまだ私一人しかいなかったので私が担当することになり、どうせだったら名前も決めようという話になり、「将棋や囲碁の最上位の人は名人と呼ばれるから、名人はどうだろう」と一言で「高橋名人」が誕生したわけです。

 第1回キャラバンの競技用ソフト『スターフォース』で披露したことから、私の代名詞となった「16連射」ですが、実は第1回では16連射と言ってなかったんですよ。その後に出た言葉なんですね。子供から「敵を倒すのがすごい速いけど、どれぐらいのスピードで打っているの?」という質問があって、調べてみることになりました。ただ調べる機材が全くないもんですから、スターフォースの攻略ポイントを使って、アバウトに数えてたんです。だから翌年公開の映画で『スターソルジャー』をプレイしたフィルムをスタッフが数えてくれたら、実際は17連射していたそうです。ただ、元々ハドソンはコンピュータのソフトメーカーで、仕事柄16進数も使っていましたし、キリがいい綺麗な数字ということで16連射にしました。

 皆さんによく聞かれますけど、16連射の特訓はやっていません。でもコツはお教えできますよ。16連射は指先だけでやっていると思いがちなんですけど、私は肘から指先まで全体を動かしているんです。だから腱鞘炎には絶対にならない。後は物理の問題で、同じスピードでも引き上げた指の高さを半分にすれば倍の回数で打てるからどんどん狭くしていきます。1、2ミリぐらいにするのが一番いいんですけどね。ただ、いまの私だと3~5ミリぐらいなので、もう16連射は無理ですね。調子の良い時でも13連射前半になってしまいました。

 第1回キャラバンで全国を回ったことで名人人気は確かに上がっていきましたが、子供の中だけの話なんですよね。夏休み期間ですから当然と言えば当然ですけど。ファミコン人気も同じようなものでした。変わり始めたのは、年末に「クリスマスファミコンフェスティバル」というチャリティイベントを開催したときのことでした。ちょうど取材に来ていた東京新聞が翌日の紙面の見開きに「〝スーパーヒーロー〟出現」「今、子供たちのあこがれ」「ファミコン・高橋利幸名人」と大きく取り上げてくれたんです。すぐに「週刊文春」や「フライデー」から取材依頼が来ましたよ。ファミコン人気の出始めなので、ほかのマスコミも話せる人間を探していたんじゃないでしょうか。年明けに雑誌が発売されて、大人にもファミコンブームが一気に広がっていきましたね。また、キャラバンを終えた9月に発売された『スーパーマリオブラザーズ』の存在も大きかった。「ファミコンに面白いゲームがある」と口コミから広がり始め社会現象を巻き起こしたわけですから、ブームを大きく後押ししましたね。