そもそも皇室典範は、前にも触れたように、「国会の議決した」法律となっているとはいえ、その原型は明治憲法に並列して制定されていた皇室の御家法と呼ぶべきものである。故に、皇室典範の改正に係る具体的な中身は、天皇陛下を含む皇室の方々の御意向を体して決めるべきものであって、政治家を含めて庶民が容喙すべきものではない。小泉純一郎内閣期、女性天皇の是非を焦点にした皇室典範論議が沸騰した折、世に保守論客と目される人々ですら、口角泡を飛ばした論争に及んでいたのは、誠に奇怪な光景であった。

 皇室典範改正案それ自体は、たとえば皇室会議のような場で「外部の喧騒」から離れたところで作成され、国会に提起されるべきものあろう。

 加えて、皇室典範改正案に絡む国会審議の性格もまた、その改正案の中身を検討するのではなく、それを実質上、承認するかしないかという議論に限ったものになるという諒解は、予め成しておく必要があるであろう。皇室典範改正案審議が政争の渦中に落ちる可能性は、完全に排除されなければならないのである。

 さらにいえば 前に触れた現行憲法第二条の条文中、「国会の議決した」という文言それ自体が適切なのであるかは、今後の憲法改正論議の文脈で議論されるべきものであるかもしれない。日本の立憲君主国家としての型が民主主義体制の論理によって浸食される事態を避けるためには、この文言を削除すべきだという議論は、成り立つのではなかろうか。

 故に、筆者は、譲位を含む皇位継承の有り様に関しては、仮に宮内庁筋から意見を求められるようなこと〈現実にはあり得ないことではある…〉があれば、政治学者の責任として何かを内々に具申するかもしれないけれども、それ以外は何かを公に語る気はない。この件は、侃々諤々たる「民主主義的な議論」には全く馴染まない。皇室の方々やその周辺の議論の結果が出るのを静かに待つというのが、国民の態度としては相応しいと思われる。