竹田恒泰(作家)

 7月13日、NHKが「天皇陛下『生前退位』の意向示される」と報じた。NHKによると、陛下は「憲法に定められた象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ」と思し召され、今後、年を重ねていくなかで、大きく公務を減らしたり代役を立てたりして天皇の位にお留まりになることは望んでいらっしゃらないという。また、皇后陛下はじめ、皇太子殿下、秋篠宮殿下もこの聖旨を受け入れていらっしゃるとのこと。

窓に明かりがともる宮内庁の庁舎=7月13日、東京都千代田区の皇居 (納冨康撮影)
窓に明かりがともる宮内庁の庁舎=7月13日、東京都千代田区の皇居 (納冨康撮影)
 この報道に接した多くの人は、陛下の「御意向」に共感し理解を示したことであろう。私もその一人である。日々献身的に祭祀と御公務に打ち込んでいらっしゃる陛下のお姿は、多くの国民が感謝の気持ちを以て見守ってきた。そろそろ譲位なさり、お身体を労って頂きたいと思うのが大多数の国民の思いであろう。

 私は、報道にあった陛下の「御意向」は、恐らく陛下の本心と思う。これまでの陛下の御発言などからして、とても自然で矛盾のない内容であるから、きっと本心であられることと私は納得した次第である。一刻も早く法整備をして譲位を実現して差し上げるべきであると考える。

 ただ、NHKの単独スクープとして報じられたことに、一抹の疑問を抱いた人も多いのではないか。

 NHKは「宮内庁の関係者に示されていることが分かりました」というのみで、「宮内庁の関係者」とは誰なのか、またNHKはどのような経緯で「分かった」のか、報道は何も説明していない。その上、宮内庁次長と宮内庁長官はいずれもこの報道を真っ向から否定している。このように、話の出所も真偽も不明の情報であるにもかかわらず、報道各社はNHK報道に追従した。一体真実はどこにあるのか、悩んだ人も多いであろう。

皇室は非政治的でなければならない


 陛下は憲法に定められた天皇の在り方を何よりも大切になさっておいでで、これまで政治発言を差し控えていらっしゃった。小泉政権下で皇位継承問題が盛んに議論された折も、陛下は皇室制度についてご意見を表明なさらなかった。

 皇室制度は皇室典範という法律によって規定されているため、その改変は国会の責任事項であるから、いうなれば政治問題である。陛下が皇室制度に関して御発言を控えていらっしゃるのは、憲法の趣旨を踏まえてのことと拝察される。

 陛下とて、種々の政治課題について個人的なご感想をお持ちになることはあろう。ご家族やお身内とそのような政治的な会話をなさることもあろう。しかし、それは飽くまでも内々でのことであり、決して公に仰らないのである。

 日本国憲法は第4条で「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」、また第七条で「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」と定め、続けて10項目、また第6条に2項目、合計12項目の国事行為を列挙している。

 これを根拠に、天皇が政治活動を行ない、あるいは政治発言をなさることは憲法を逸脱するものと解され、また同時に、天皇を政治的に利用する行為も憲法の趣旨に反するものとされている。したがって、今般、「宮内庁の関係者」がNHKに情報をリークし、陛下の「御意向」が単独スクープ報道として表に出たことが、果たして陛下の御心に叶ったものであるのか、私には甚だ疑問に思えるのである。