猪野亨(弁護士)

 今上天皇が退位を表明されていますが、皇室典範の改正が必要ということになります。皇室典範には生前の退位についての規定がないというのがその理由ですが、そもそも天皇自身が退位したいというのに、法の規定がないから退位できないというのも不合理といえば不合理です。天皇の意思が一切、考慮されないということになりますから、天皇の人権はどうなるのかとうことです。

 象徴天皇制、世襲制という特殊な地位から天皇には憲法上の基本的人権の適用は制限を受けるとされていますが、とはいえたまたま皇室に生まれたというだけで、かかる差別的処遇を受けなければならない合理的な理由はありません。
新年祝賀の儀に臨まれる天皇、皇后両陛下はじめ皇族方=皇居・宮殿「松の間」
新年祝賀の儀に臨まれる天皇、皇后両陛下はじめ皇族方=皇居・宮殿「松の間」
 皇室典範の改正の要否はともかく、憲法上、生前の退位は無理とする政府高官の発言が報じられています。「政府関係者「天皇陛下の生前退位は無理」」(日本テレビ2016年7月15日)「陛下の意向があると報じられる中で、皇位継承について定めた皇室典範を変えることが、天皇の国政への関与を禁じた憲法第4条に抵触する可能性を念頭に置いたものとみられる。また、「生前退位」という制度を設けることと、摂政を置くことを定めた憲法第5条との整合性を問題視しているとみられる。」

 天皇が発言したから、皇室典範を改正するとなると、天皇の発言が政治性を帯びるということになるという理屈のようです。そればかりでなく天皇が自らの意思で退位ができるとなれば、その退位という行為によって政治的影響が出ることも否定できないことになります。時の政権による政治利用も考えられます。皇太子を即位させ、お祭りムードを作り上げるというようにです。生前退位であれば、お祭りムードにすることがやりやすくなるからです。

 天皇を特別な地位に見立てたいとする保守・反動勢力は、これを許さず、天皇を祭り上げたいという勢力もあります。こういった勢力は生前の退位などもってのほかと考えているようです。

 生前退位を認めない皇室典範自体が人権上も問題なのであり、天皇の発言はきっかけに過ぎず、改正の契機とすること自体、何ら問題はありません。天皇の退位の希望が政治的発言とは言い難いからです。「天皇の退位の自由の次は、皇室離脱の自由の保障だ、天皇の言葉の政治利用を考えながら