佐藤彰一(國學院大学教授、弁護士)

 現時点の報道では容疑者の人物像がクローズアップされており、事件があった「津久井やまゆり園」という障害者施設の生活の全容はまだ明らかになっていない。それだけにこの事件を読み解くのは難しい。容疑者は措置入院したというが、医師が2週間程度で退院を認めたということは、重度の精神疾患ではないとの判断だろうが、この点もまだ判然としておらず、詳細な分析はできない。

 ただ、容疑者は「障害者を抹殺する」というような強烈なメッセージを発しており、今回の事件で重視すべきは容疑者個人の精神構造だけでなく、なぜこのような考え方を持つにいたったのか、施設で働き始めた後に抱いたと思われるだけに、施設の運営方法や職員と入所者の関係など、内情もきちんと検証しなければ本質は見えてこないと思っている。

 このような施設の中で起こり得る事態は、職員が働くうちに、入所者への差別意識が極度に先鋭化し、職員が入所者と対等ではない関係に思えてくる傾向が強くなることだ。

 こういった感覚に陥る要因は、施設での障害者は否応なく集団生活をしなければならないからだ。集団生活をするということは、風呂やトイレのほか、食事や外出など、入所者がさまざまな要望を職員に投げかけても、その要望を職員がすべて引き受けることはできず、手間がかかる障害者に支援が集中したり、重度の障害者だけににかかりきりになったりし、その中で一部の入所者の要望は無視されることになる。
多数の死傷者が出た相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」=26日
多数の死傷者が出た相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」=26日

 こうなると自分の意向を無視される入所者はあきらめが先行して希望を失い、その一方で無視せざるを得ない職員の方も入所者を対等の人として見えなくなるという悪循環が生まれてしまう。

 また、本来障害者施設では就寝時に入居者の部屋の施錠をしてはならないことになっているが、これまで高知県や鳥取県など、いくつかの県立施設で施錠の実態が明らかになっており、職員の数や手間を省くために施錠をしてしまうケースは後を絶たない。

 やまゆり園の施設がどうなっていたのかはまだ判明していないが、個別の部屋の施錠は原則として禁止されていても、原則通りに運用されているかはわからない。個々の支援記録に記載されないケースもいくつかの施設で見られ、実態は報道によっても明らかになっていない。施設の玄関や施設内のフロアなど区切れたスペースでの施錠はしていたわけで、これに加えて夜間の部屋の施錠管理が行われていたのかどうなのか、容疑者が「職員から鍵を奪った」行為が何を目的にしているのかなど、これらはこれから明らかになるだろう。