吉田潮(ライター・イラストレーター)

 都知事選は毎回ある種のお祭りでもある。奇天烈な候補が都内を賑わすからだ。金の余った年寄りがトンデモ公約をぶちかます。おや、若いなと思ったら新興宗教系の候補だったりする。新聞に差し込まれる選挙公報を見るのが楽しみでもある。他県に住む知人からは、別の意味でうらやましがられたこともある。「東京都知事選はお笑いの祭典なの? なんか楽しそうだね」と。



 過去2回の投票結果を見ても、「やっぱり東京都民ってバカなのね」と軽く罵られた。私が投票した候補は次点に終わり、傲岸不遜な人が立て続けに当選した。「性格も面構えも悪くないと都知事になれない」というのが定番になったのか。後から考えれば、嘘つきで金に汚いというのも当選の必須条件。その結果、お粗末な辞任劇。お笑いの祭典では済まされないでしょ。

石田純一氏
石田純一氏
 で、今回。突如浮上したのが俳優の石田純一だった。正直驚いた。あのゆるふわキャラの石田がなぜ出馬?!  政治は門外漢だが、テレビ界における石田の立ち位置をやや心配していた私としては、触れておかねばならない。

 石田と言えば、トレンディ俳優のはしり。バブル時代に人気を博した「抱きしめたい!」(フジ)や「オイシーのが好き!」(TBS)で、存在が鴻毛のごとき軽薄なマスコミ勤務の男を演じていた。若い人は「はいはい、中年特有の昔懐かし話でしょ」と思うだろうが、しばしお付き合いを。

 私が最も記憶しているのは、今井美樹主演のTBSドラマ「想い出にかわるまで」。石田は今井との結婚を控えていたエリートサラリーマンの役だった。今井の妹・松下由樹に情熱的に迫られ、関係をもってしまうという、色に弱い男である。大人の表現で竿姉妹ね。

 私の中で「なんとなく情熱に弱い」イメージは、ここから定着したように思う。

 その後は不倫騒動の先駆者として、ゴシップ界に君臨。バブル紳士のファッションリーダーとして名を馳せ、キーワードは裸足に革靴、ゴルフとワイン。性悪な元モデルとの熱愛もあったよね。ゴシップネタもなくなり、落ち着いてきた頃には、バラエティ番組業界にプライベートを惜しみなく提供。前々妻との息子や前妻の娘、現在の嫁、コワモテの義父など「石田ファミリー」をテレビ界に余すところなく蔓延らせた。素直に「素晴らしい繁殖力と、敵を作らぬスーパーお人よし」と感服したものだ。が、本業の俳優としては、やや低調。ちょっと前までは、東海テレビの昼ドラの準レギュラーとして、外連味たっぷりのアホ紳士を演じたり、「僕らプレイボーイズ熟年探偵社」(テレ東)では石田純一そのものという軽薄な役柄を披露した。

 しかし、年齢の割に重みがないというのは、なかなかのデメリットである。同年代の俳優に比べて、刑事モノや警察モノにはほぼ呼ばれない。類まれなるバブル感は、タレントとして重宝されるものの、俳優としては微妙だったのだ。

 そこにきて、都知事選の出馬騒動。結局数日間で挫けてしまったのだが、個人的には波紋を呼んだと思っている。芸能界とテレビ界では誰も口にしない「現政権に対する違和感」を口にしたのだから。参院選と都知事選をごっちゃにするな、という意見もあるが、石田が「野党統一候補であれば」という条件付き出馬を宣言し、野党共闘で改憲阻止という願いがクローズアップされるはずだった。