【朝日新聞研究】


酒井信彦(元東大教授)


 6月12、13、15日と3回にわたって、朝日新聞朝刊に「わたしと沖縄戦 戦後69年」というインタビューの記事が載った。6月23日の沖縄戦終結の日にちなんだものだが、注目されるのは話し手が戦争を知らない沖縄出身者で、しかも、「知花くらら」「二階堂ふみ」「いっこく堂」といった、モデル、女優、腹話術師であることである。

 このところ朝日新聞が芸能人やタレントを政治的に利用することが、目立って多くなってきた気がする。それは東日本大震災後の原発報道から始まり、どんどんエスカレートしている。

 昨年末の特定秘密保護法と今年の集団的自衛権問題では、連日のように反対する各界著名人のコメントが顔写真入りで載せられているが、そのなかには芸能人らもかなり含まれている。

 最近の「集団的自衛権を問う」では、6月23日には歌手のUA(ウーア)が「急ぐ真意はっきり言えば」、同26日には漫画家の蛭子能収氏が「手出せば倍返しされる」、同28日にはロックンローラーの内田裕也が「安倍ちゃん なぜ急ぐんだ」、7月1日にはアイドルグループ「制服向上委員会」の木梨夏菜が「聞いて 戦場に行く世代の声」といった具合である。

 特に、蛭子氏は集団的自衛権について「報復されるだけじゃないですか」といい、中学生時代のいじめの経験を振り返り、「腹は立つけど、相手を殴ることはしません。手を出すと倍返しされ…」などと語っている。

 庶民が暴力団に絡まれたときは、抵抗はしない方がよいだろうが、国家間においてもそうしろというなら、あきれてしまう。蛭子氏には失礼かもしれないが、何をされても屈伏しろと言うのなら、完璧な敗北主義の主張としか思えない。ただし反戦平和主義者の本音が、よく表れている。

芸能人を利用して政治誘導を図る朝日 保守陣営も学んだらどうか
芸能人を利用して政治誘導を図る朝日 保守陣営も学んだらどうか
 芸能人の政治的発言、あるいは芸能人を利用した政治的誘導は、社会面のみならず、文化・芸能欄においても、巧妙にまぎれこませている。

 例えば、4月18日夕刊の映画の欄では、「テルマエ・ロマエII」に古代ローマ人ルシウス役で主演した阿部寛にインタビューした記者が「強いローマ帝国の復活をもくろむ現実主義者に対し、時の皇帝ハドリアヌスは戦争のない平和なユートピアを作ろうとする理想主義者。帝が手本にするのはルシウスが見聞してきた現代日本だ」「国内外がきな臭くなっている今こそ、この映画が世界中でヒットしてほしいと願う」と記している。

 では、朝日新聞はどうして芸能人に政治的発言をさせるのであろうか。

 そのポイントは、親しみやすさということであろう。芸能人はマスコミを通じて日常的に大衆と接しており、身近な存在なのである。テレビで顔を売った人間が、簡単に議員や知事に当選するのは、そのためだろう。お堅い学者や文化人の発言より、一般の人々に影響力があるのではないか。

 朝日新聞のこの芸能人を利用して、政治宣伝を行う手法は、なかなか巧妙である。敵の優れたところは、保守陣営も学んだら良いのではないか。


さかい・のぶひこ 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、明治学院大学非常勤講師や、月刊誌でコラムを執筆する。著書に「虐日偽善に狂う朝日新聞」(日新報道)など。