岡本裕明(Blue Tree Management 株式会社 代表取締役)


 世界で民衆の声が既存の壁を打ち破る事態が次々と生じていますが日本でも都知事選を通じて予想以上の都民の声が孤独な一女性候補を知事にまで押し上げました。ポピュリズムという言葉以上に何か、民が既存の政治システムに不満を持っている表れなのでしょうか?

 小池百合子。カイロ大学からニュースキャスターという経歴からプレゼンテーション能力に長け、ディベートができる逸材であります。その彼女が政治家に転身した際、政治の社会の裏側を否が応でも見せつけられたはずです。安倍首相はアベノミクスの構造改革で苦戦していますが、小池氏も当然その特殊な世界は見てきています。小池氏は首相がなぜ構造改革で苦しんでいるかも十分理解されていることでしょう。

 党派の中には派閥、さらに実務に落とすにあたり官僚との関係などしがらみだらけのその世界は体育会系の上下関係以上の当選回数序列があり、儒教的家父長制度をそのまま残したアンタッチャブルな世界でもあります。同様の儒教的上下関係は自民党都連の中にもあり、内田ドンを中心とする保守的前例主義が鎮座しています。

候補者の演説に耳を傾ける有権者ら=2016年7月30日、東京都豊島区 (古厩正樹撮影)
候補者の演説に耳を傾ける有権者ら=2016年7月30日、東京都豊島区 (古厩正樹撮影)
 今回、組織という応援が全くない中で戦い抜いた小池百合子氏を全面的に支援したのは都民そのものでした。結果は氏の290万票余りの獲得に対して2位の増田氏、3位の鳥越氏にそれぞれ110万票、150万票以上もの差をつけたその数字は吟味する必要があるでしょう。増田氏、鳥越氏には組織票が入っています。これはやる前からある程度の票が確実に加わることを意味していますから組織票を持たない今回の小池氏の勝利具合はとんでもない圧勝であるのです。

 では世界で起きているポピュリズム、ナショナリズムとどう結びつくのか、です。個人的にフランスのマリーヌ ル ペン、英国のボリス ジョンソン、アメリカのドナルド トランプないしバーニー サンダース氏は国民や市民の不満をボイスアウトしたものであります。グローバリズムに対して自分たちの権益や既得権が脅かされることに対して声を上げたものが国民の期待を引き受ける形でポピュリズムが生まれています。 

 ノーベル賞を受賞しているスティグリッツ博士が7月に政府の在り方についてこのように批判しています。「過去40年にわたる新自由主義的な政策は上位1%の富裕層には恩恵をもたらしたが、ほかの人には望ましいものはではなかった。近年の経済的停滞は政治的に重大な結果をもたらすと警告してきたが今、まさにその懸念が現実になったということだ」(日経ビジネス)と。

 東京都には何が足りなかったのか、それは民間主導の経済と経営に対してその枠に入らないリタイア層や非正規、寂れ行く自営業者や個人経営者の声を受け止める仕組みだった気がします。東京都がバイタリティ溢れ、さらに強化されていく成長過程になく、溢れんばかりの高齢者に待機児童、十分な賃金が貰えず、生活に苦しんでいる人々の声がオリンピックばかり優遇されるその実態に対する潜在的不満が爆発したものでしょう。

 既得権者を守る政党政治は世の中がうまく廻っているうちは問題がないのですが、日本が曇天の景気をもうすでに20年以上も続けている中で我慢の限界が来たとも言えます。

 さて、政権はこの新たに生まれた新風をどう受け止めるのでしょうか?安倍政権得意の周りを囲い込み、ボコボコにする力づくの政治力を見せつけるとは思えません。それは安倍政権もいつまでも安泰ではないという危惧が小池新都知事の声に耳を傾けざるを得ない関係とも言えるからでしょう。安倍政権はただでさえ沖縄と厳しい関係を続けています。あるいは原発では各地で反政府的ボイスが上がっています。福島や熊本の復興もあります。その中、おひざ元東京で袂を分かつわけにはいかないことは安倍首相ならわかっているはずです。

 もう一つ、増田、鳥越両氏が善戦したとも言えないような惨敗だったことは自民をはじめとする全政党が都民の声を読み違えたといえます。今回の選挙の結果は真摯に受け止め、変わりつつある日本が誰が主導していくのか、大きなヒントを与えてくれたような気がします。

 小池氏については多くの公約がありますが、どれも難関であります。その中でまずは都議会を解散し、どう勢力地図を作り替えていくのか、この辺りがまずは手腕の見せ所ということでしょうか?

(2016年8月1日 ブログ「外から見る日本、見られる日本人」より転載)