門田隆将(ノンフィクション作家)

 小池百合子氏の圧勝で、ほっと胸を撫で下ろした人が、私のまわりには沢山いる。なにより恐れたのは、「鳥越氏が都知事になることだった」という人がいたのでその理由を聞いたら、「都政が“プロ市民”たちに牛耳られるのは、どうしても嫌だった」という。

 たしかに都民とは関係のない「憲法改悪阻止」「ストップ・ザ・安倍」「非核都市宣言」……等々と、昨年の国会周辺を取り巻いた人たちが主張することをそのまま述べておられた鳥越氏とその支援者たちに、ある種の“恐怖”を感じた向きは少なくなかったようだ。都庁で“プロ市民”が跋扈(ばっこ)し、13兆円もの予算に大きな影響を与えるような事態が避けられたことは、たしかによかったと思う。

 前回のブログでも書いたように、日本の人口の10分の1が集中する大都市東京では、人生の終末を迎えた老人たちが悲惨な環境にいる。「待機児童問題」より遥かに深刻な問題がそこにはある。NHKは、「漂流老人」という言葉を用いて、劣悪な環境の中で人生の終末を過ごす人々の姿を捉えていたが、「待機児童」問題も含めて、つくづく東京に住む人は、幸せをつかめていないように感じる。そこへ1970年代の思想そのままの“老ジャーナリスト”が出て来ても、支持を得られなかったのは、当然だったように思う。

東京都知事選で鳥越俊太郎氏(左)への支持を訴える
民進党の岡田克也代表=7月30日、東京都新宿区
東京都知事選で鳥越俊太郎氏(左)への支持を訴える 民進党の岡田克也代表=7月30日、東京都新宿区 
 統一候補として鳥越氏を担いだ野党四党は、直前の参院選で計「240万票」を獲得している。知名度のある鳥越氏を統一候補にできた段階で、野党には「勝てる」という目算があっただろう。しかし、鳥越氏が獲得した票数は、わずか「134万票」。目論見より100万票以上、少なかったのである。そのことをどう見るか。私は、この選挙が「新時代の到来」を意味するものであったということを感じる。ほかの言葉で言い換えるなら、“ドリーマー時代の終焉”ということだ。

 今の世の中が、昔のような「左」と「右」との対立の時代でないことは、当欄でも繰り返し論評してきた通りだ。現実には決して目を向けない“ドリーマー(夢見る人)”と、現実を直視する“リアリスト(現実主義者)”の戦いという「DR戦争」がつづいている今、その「決着」を示す選挙結果だったように思う。

 今回の選挙がおもしろかったのは、「DR戦争」を明確に示すキャラクターが揃ったことだった。まさに鳥越氏は、“ドリーマー”を代表する人物だったし、“リアリスト”である増田氏と小池氏の二人は、「組織をバックにする人」と「そうでない人」に分かれて、有権者の審判を仰いだ形になった。

 選挙戦の過程で、氏は、過去に尖閣問題に関して、「一体どこの国が日本に攻めてくるって言うんですか」「(中国が攻めてくるというのは)妄想です。そんなことはあり得ない」「万一、ないとは思うが中国が攻めてくる可能性はあるかもしれない。その場合は、自衛隊が戦うべきです。アメリカなんか要らないです」と、支離滅裂な発言をしていたことが明らかになった。

 それは、70年代から時間が止まっているのではないのか、と思わせるレベルの低さであり、実際に選挙演説でも、「ガン検診受診率を100パーセントにする」「島嶼部では、消費税を5パーセントにする」という現実離れしたことを語り、口を開けば開くほど票を減らしていった。