長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト)


 ロンドン発の記事をフォローしていると、英国民は欧州連合(EU)から離脱を望んでいなかったような印象を受ける。23日に実施された国民投票の結果は約51・9%の国民が離脱を願っていた。残留派との差は僅差だが、多数決原則に基づく民主主義国家では十分な差だ。繰り返すが、英国民はEU離脱を決定したのだ。実際、残留を主張してきたキャメロン首相は24日、敗北を認め、引責辞任を早々と表明している。
首相官邸前で辞意を表明するキャメロン首相=6月24日、ロンドン(ロイター)
首相官邸前で辞意を表明するキャメロン首相=6月24日、ロンドン(ロイター)
  にもかかわらず、というべきか、残留派は執拗に国民投票のやり直しを要求し、請願書を送り続けている。あたかも23日の国民投票の決定は国民ではなく、欧州に彷徨う亡霊が国民の意思に反して離脱の道を強いたと主張しているようにだ。そうではないはずだ。それでは離脱派の情報操作や偽情報が多くの国民をミスリードした結果だろうか。情報操作や偽情報は選挙戦で常に見られる現象であり、特筆に値しない。残留派にも、一定の情報操作はあったはずだ。

  それでは、直接民主主義の代表的な制度、国民投票は国民の総意を反映しないのだろうか。この問い掛けはかなり危険だが、英国民の「その後」の反応をみていると問わざるを得なくなる。

  民主主義は基本的には多数決原理に立脚している。選挙では一票でも多い候補者、政党が当選し、少なければ落選だ。最近では、オーストリアで実施された大統領選は文字通り、2候補者は1%以下の得票差だったが、集計のやり直しを要求できても、不正が判明しない限り、選挙のやり直しはできない。

  多数を獲得した政党は政権を担当し、その選挙公約を実施する。しかし、議会民主主義は決して勝利者オンリーの政治システムではない。国民の人権尊重や少数派の権利は保障される。その上、民主主義は2重、3重の自己規制のメカニズムが機能している。

  先ず、総選挙で過半数を獲得した政権の任期は決められている。ローマ法王のように終身制ではない。通常、4年から5年だ。国会議員も同様だ。所属する政党の党綱領に縛られているから、自分勝手な言動をふるまうことはできない。

  選挙で落選すれば、「先生」と呼ばれてきた国会議員も「ただの人」となる。日本の永田町の住民はそのことを肌で感じている。その意味で民主主義の多数決原則には暴走防止のさまざまな規制メカニズムが機能しているわけだ。換言すれば、民主主義下で独裁者が誕生しないように防止策がとられているわけだ。