三浦瑠麗(国際政治学者)


日本政界を代表する主要3陣営


 都知事選の総括は、各方面で行われています。小池氏の圧勝という結果を解釈すること自体はそれほど難しいことではないでしょう。今般の都知事選の主要三候補は、過去20年ほどの日本政治の典型的な3つの陣営を代表していたように思います。

 鳥越氏は、退潮傾向の左翼陣営を代表していました。分配重視の経済政策と、改憲、原発などの政治性を帯びる論点では一様に政権の反対を唱える政策スタンスです。それでも、参議院選挙の野党4党の得票数を見れば、左翼陣営にも200万票を超える「基礎票」があったはずなのだけれど、候補者本人の資質の部分があまりにお粗末でした。女性の人権をめぐる点について、事実はともかく、説明責任を果たさなかったことでリベラルな価値観を持つ有権者は離れてしまいました。左側を代表する識者の多くが、この点をあいまいにして、政権と対峙することを優先したことも、日本のリベラリズムに禍根を残すのではないでしょうか。

 増田氏は、官僚と与党のボス達が差配する旧来の統治階級を代表していました。政策スタンスは、現状の政治経済システムに満足しているという大前提から導かれています。下から上がってきた新しいアイデアを採用することはあるし、制度の破たんを回避するような弥縫策は打ち出せても、局面を打開するようなリーダーシップはありません。村社会の掟に対して忠実ですから、そもそも、リーダーシップを貴ぶという文化そのものと相容れないわけです。もちろん、村社会のボスには物事を動かす力が備わっていることもあるけれど、増田氏は、都議会やオリンピック組織委員会のボス達に「使われる」立場であることが、あまりにも明らかでした。私自身は増田氏本人の岩手県知事時代の実績や、氏の代表作でありベストセラーとなった『地方消滅』に透けて見える世界観に大いに疑問を持っていますが、今回は、それ以前の問題であったということでしょう。
東京都知事選で落選が決まり、自民党都連の石原伸晃会長(左端)や内田茂幹事長(左から3人目)らの前を通り、あいさつに向かう増田寛也氏(右端)=7月31日
東京都知事選で落選が決まり、自民党都連の石原伸晃会長(左端)や内田茂幹事長(左から3人目)らの前を通り、あいさつに向かう増田寛也氏(右端)=7月31日
 小池氏は、過去20年間の「改革」の気運をもたらした勢力を代表していました。日本新党から政界に進出し、小沢氏、小泉氏、安倍氏と、その時代時代で改革の気運を代表するリーダーに重用されてきました。「気運」という言葉を繰り返すのは、これらのリーダーが本当に改革を志向していたのか、はっきりしない面があるからです。ただ、気運として改革志向であったことは間違いないでしょう。今では90年代的な香りがする言葉ではあるけれど、その内実は、外交安保でいけば「普通の国」という方向であり、経済でいけば「フリー・フェア・グローバル」という方向に向けた改革です。もちろん、小池氏本人には、初の女性都知事という錦の御旗もありました。

 鳥越氏に女性スキャンダルが持ち上がったこと、増田氏立候補の過程で東京都連の旧弊で陰湿な雰囲気が明らかとなったことで、女性候補である価値は格段に高まったことでしょう。自民党支持者はともかく、公明党支持者からも、共産党支持者からも小池氏支持が一定の割合を占めたのは、この辺りによるのではないでしょうか。