河合雅司(産経新聞論説委員)


 日本が「多死社会」に向かっている。厚生労働省によれば2015年の年間死亡者数は130万2000人で戦後最多を更新する見通しだ。

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計では2030年に160万人を突破し、2039、2040両年の166万9000人でピークを迎える。その後もしばらく160万人水準で推移するという。

条件次第で1週間待ち


 死亡者数の増大で懸念されるのが斎場や火葬場の不足だ。深刻化しそうなのが東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)である。場所や時間帯によっては、すでに1週間や10日間程度待たされるケースが生じている。

 対策として、縁起が悪いとして避けられがちだった「友引」の受け付けや、「通夜、告別式、火葬」という流れを見直し、午前中の早い時間帯や夕方へと火葬時間を分散させようといった模索も始まっている。

 だが、東京圏の高齢化はこれから本格化する。2014年10月1日時点で75歳以上人口は約380万人だが、社人研の推計によれば2025年には572万人、2040年には602万人に膨らむ。

 今後の死亡者数の激増を考えれば、こうした取り組みだけでは十分とは言い難い。

 問題解決には斎場や火葬場を増やすことが一番だが、新設には用地取得や地域住民の理解がハードルとなる。将来的には死亡者数が減ることも勘案しなければならない。ピーク時に合わせて増やしたのでは、やがて過剰となる。

大都市との接点増やす


 では、大死亡時代にどう対処すればよいのだろうか。

 ヒントは地方創生にある。人口減少が進む地区では斎場や火葬場の利用者も先細りとなる。東京圏の郊外に斎場や火葬場の空きを探すのもよいが、どうせ自宅から離れた土地で行うことになるのならば、故人の出身地に帰ってはどうか。

 お手本となるのが、「お葬式はふるさとで」と呼び掛ける石川県小松市の小松加賀環境衛生事務組合だ。2月には神奈川県の男性を霊柩車で搬送した。出身地での葬儀が定着すれば、東京圏の火葬場不足はかなり解消する。

 一方、地方にとってもメリットは大きい。多くの自治体は大都市からのUターンやIターンに期待を寄せるが、総人口が大きく減るのにすべてが移住者を呼び込めるわけではない。むしろ都市部との交流を増やし少しでも人口減少対策への時間を稼ぐことが重要となる。その点、葬儀の受け入れは大都市住民との大きな接点となろう。

「ふるさと納税」条件に


 とはいえ、地方住民が斎場や火葬場を利用しづらくなるのでは本末転倒だ。東京圏からの利用者を割増料金とするのもよいが、活用したいのが「ふるさと納税」だ。一定年数の納税を受け入れ条件として課す。納税の特典として「葬儀」の権利を得られるようにするのである。

 毎年納税することによって、おのずと先祖を意識するようになるだろう。故郷への帰属意識が高まり、ボランティアや街おこしの手伝いなどに参加する人が増えるかもしれない。

 本人の葬儀後に遺族や親族がお墓参りに訪れるようになれば、「ついでに観光も」ということにもなる。地方にとっては、ふるさと納税による財源確保以上の効果を期待できるというわけだ。

 ふるさと納税をめぐっては、総務省が換金性の高い商品券などを「お礼の品」として贈らないよう自粛要請を行ったが、その趣旨にも沿うだろう。

 課題は棺を運ぶためのコストだが、利用者が増えれば新たなサービスを提供する事業者が増え価格は安くなるのが世の常だ。一方で東京圏の斎場や火葬場の空き待ち時間が長くなれば霊安室の利用料などがかさむ。

 遺族や参列者の交通費もかかるが、家族葬などが増え会葬者は減る傾向にある。東京圏ではお墓の不足も予想される。「死んだら先祖が眠る故郷の墓に入りたい」と考えている人は少なくない。これらも含めて総合的に勘案すれば、十二分に選択肢の1つになると思われる。

 少子化で、お墓を受け継ぐ子孫がいない人も増え、管理する人が不在の「無縁墓」になることへの懸念も広がってきている。葬儀だけでなくお墓の管理までセットで地方側が担うことにすれば、ニーズはさらに広がるだろう。

 柔軟な発想なくして、多死社会は乗り越えられない。